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※所属・役職は掲載時のものです。

今年のノーベル医学生理学

2005/12/01

岡部 進   (薬学部特任教授)

今年度のノーベル医学生理学賞が発表され、オーストラリアのロビン・ウオレン教授とバリー・マーシャル教授が受賞することに決まった。両教授の受賞の対象は、胃内に棲息するヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)の発見であった。

従来、胃は高濃度の胃酸(塩酸)を分泌するので、細菌の存在は不可と信じられてきた。病理学者であるウオレン教授は、長年胃炎、胃ガンなどの組織を研究していたが、胃炎患者から採取した粘膜中に高頻度で細菌が棲息していることを発見した。インターンとして勤務していたマーシャル博士に、その細菌の培養を依頼したが、通常の培養期間では増殖は認められなかった。イースター休暇を過ごした後、研究室に戻ると、細菌培養器の中にピロリ菌が増殖している事を発見した(1983年)。この菌の増殖には約1週間かかることが判明した。セレンデピテイ(偶然による発見)であった。博士は、その増殖した菌を自ら服用し、明白な胃炎の発生を認め、ピロリ菌が病原菌であることを証明した。同僚は、クレイジー・バリーと呼んだ。

しかし、これらの発見により刺激を受けた全世界の胃腸学者が、ピロリ菌の研究に取り組み、多数の学術論文が発表された。特に、胃ガン患者では、胃にピロリ菌が高率に棲息していることが疫学的に判明し、胃ガンの原因菌ではないかと推定された。その後、動物実験で、ピロリ菌単独投与で胃潰瘍、胃ガン(あるいは胃ガン類似変化)が発生し、ピロリ菌を高ガストリン血症マウスに投与することによっても胃ガンが発生した。わが国でも、ピロリ陽性患者では、抗生物質での除菌が実施されている。

筆者も、このピロリ菌の研究に従事し、スナネズミにピロリ菌を感染させ、24ヵ月後に胃ガン様粘膜変化を確認した。また感染初期での除菌では、胃粘膜は正常であったが、感染後期での除菌では、腸上皮化生の発生を抑制することはできないことを発見した。ピロリ菌陽性と診断された場合、速やかな除菌が示唆された。マーシャル博士とはこの15年間ご厚誼を頂いている。お祝いに何か送りたいものだと思案中である。