知的組織の充実と拡大

田辺キャンパスでは、設備の充実と、学生、卒業生および教職員の増加とともに、この三者の知が統合されるさまざまなプロセスとその所産を見ることができる。
本学の教員がひとつになり、専門や学科の垣根を超えた大きな視野と新鮮な発想で研究活動を展開する基盤となっている同志社女子大学総合文化研究所は、公開講演会の主催や、各学科の研究設備の整備援助など、研究の成果が大学の内外に広がっていくよう、そしてその成果が最終的には学生の教育へと還元されるよう、ますます豊かな研究環境を提供している。
卒業生、在学生、教員がひとつになって組織されている各学会組織もいっそう活発な活動を展開している。1967年発足の英文学会と家政学会(98年、家政学会は生活科学会と改称)、74年発足の音楽学科頌啓会(92年、音楽学会《頌啓会》と改称)の従来の三つの学会に、田辺開学後間もない時期から、日本語日本文学会が加わった。
日本語日本文学会は、短期大学部日本語日本文学科の新設を機として、86年10月22日、中皓教授を初代会長として発足し、89年4月1日には、新設の学芸学部日本語日本文学科が加入した。
主な活動は、研究発表会や講演会の開催、研究旅行の実施、機関誌の発行など多彩である。学会発足直後に実施された中国語講座と日本語ワープロ講座の人気は記憶に新しい。また、98年12月には狂言鑑賞会が開催され、京都大蔵流狂言茂山家による「柿山伏」「太刀奪」が新島記念講堂で披露されるなど、次ぎつぎに斬新な企画が誕生している。
機関誌としては、89年3月31日創刊の学術誌『日本語日本文学』および、89年4月創刊の学会だより『日本語日本文学』が発行されている。(これらとは別に、日本語日本文学科では、年3回事務室発行の機関誌『日本語日本文学科だより』を刊行している。)
学会に関するその他の新たな動きとして、音楽学会《頌啓会》は、86年4月、特別専修生制度を発足させた。これは、本学音楽学科で4年間の学業を終えたのち、専門の技術や知識を深める機会をさらに1年間提供する制度で、特別専修生に志願する学生は毎年増加する傾向にある。

  • 大学入学案内
    6-58 学外演奏旅行のチラシとパンフレット
  • 海外演奏旅行(1987年) テキサス州サン・アントニオのコンベンションホール
    6-59 海外演奏旅行(1987年) テキサス州サン・アントニオのコンベンションホール

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伝統の継承と新たな所産

学生と教員がひとつになる授業の一環としての行事も多様化している。

音楽学科の取り組み

音楽学科は、田辺キャンパス開学とともに、1~4年次生のすべての授業を田辺キャンパスで開始した。従来の、声楽、ピアノ、ヴァイオリンの専攻から82年に拡張転換した、声楽、鍵盤(ピアノ、オルガン、チェンバロ)、管弦打、作曲、音楽学の各専攻の学生たちが、充実した設備のもとで研鑽を積む環境が整い、また学科学生数の増加とともに互いに腕を磨きあう意欲が高まるなど、田辺移転は音楽学科にとって、計り知れない恩恵をもたらした。
85年の第15回定期演奏会においてはじめて実現した「同志社女子大学管弦楽団」は、レベルを着実に向上させ、第22回定期演奏会(92年)は、世界的な名声を得ている佐渡裕氏を指揮者に迎え、シンフォニーホール(大阪)においてマーラー交響曲第3番(アルト独唱:井原直子)を披露した。
96年、京都コンサートホールの落成とともに、定期演奏会の舞台は当ホールに移る。その年の第26回定期演奏会では、「同志社女子大学合唱団」がメンデルスゾーン「三つのモテットOp.39」(オルガン伴奏:高橋聖子)ほか、「同志社女子大学管弦楽団」がシベリウス交響曲第2番(指揮:黒岩英臣)ほかを好演した。
また1981年以来の歴史をもつ演奏旅行も、近年は隔年に実施されている。97年9月にはサントリーホール(東京)とアクトシティ浜松大ホール(静岡)において、ベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ:S. V. プロティッチ)ほかを熱演し、99年9月には、岡山、広島においても好評を博した。
「同志社女子大学合唱団」は、87年3月には、ACDA(全米合唱指揮者協会)の招聘により、アメリカ合衆国への演奏旅行を実現させた。サンフランシスコ、ロサンゼルス、サン・アントニオにおいて、中村利男の指揮による44名の学生が歌声を響かせた。
さらに声楽専攻生は、田辺移転以降、オペラにも取り組みはじめ、88年3月、「声楽アンサンブル」クラスが『Le Nozze di Figaro (フィガロの結婚)』を学内で披露した。現在もこの演目は、オペラの授業の集大成として、新島記念講堂で毎年上演されている。
田辺キャンパスで大きく翼を広げた音楽学科は、96年には演奏専攻と音楽文化専攻の2専攻体制となった。音楽文化専攻には、作曲・理論、音楽史学、音楽美学、日本音楽文化、音楽療法などを学ぶコースがある。また、学生たちがこれらの専攻の枠を超え、音楽をさらに幅広い視野で捉えられるように、毎年数回、学外から著名な演奏家や研究者を招き、演奏会、公開レッスン、公開講座などを開いている。

短期大学部におけるミュージカル

短期大学部英米語科では、短大開設間もない時期からミュージカルへの取り組みが行われてきた。
その発端は、88年11月、本学で開催された、近畿私立短期大学英語弁論大会の当日アトラクションとしての、尾崎寔セミナー(英米語科特殊研究クラス)による『My Fair Lady 』上演である。91年以降は辻英子セミナーや佐伯林規江ゼミに受け継がれ、『Fiddler On the Roof (屋根の上のバイオリン弾き)』や 『Me And My Girl 』など、さまざまな演目で全幕ストーリーが新島記念講堂において上演されている。授業の一環としてのミュージカル上演は、英語教育界のみならず広く社会一般の注目を浴びるところとなり、学外から多数の聴衆を集めている。

短期大学部における講演会

短期大学部では、例年学外から講師を招いて講演会を行ってきた。とくに近年は女性をテーマとする講演会を開催している。たとえば96年はパトリシア・フィスター(Patricia Fister)国際日本文化研究センター客員助教授が「江戸時代の女性アーティスト」、97年は落合恵美子国際日本文化研究センター助教授が「2020年の貴女―女と男の近未来」、98年は井上摩耶子フェミニストカウンセラーが「自己尊重して生きる―対人関係における女性の悩み」という演題で、学生たちの心をひきつけた。さらに99年には、井上章一国際日本文化研究センター助教授の「女らしさと美しさ」が講じられた。

シェイクスピア・プロダクション

1951年以来の伝統をもつシェイクスピア・プロダクションは、学生と教員が協同で取り組む課外活動として位置づけられていたが、75年に教科として単位認定されることになった。81年11月、第31回のシェイクスピア・イヴ『Twelfth Night 』は、シェイクスピア劇上演30周年記念として、東京(東邦生命ビルホール)でも上演された。また、1991年の第41回公演は、初めて田辺キャンパス(新島記念講堂)で披露された。演目は、奇しくも第1回と同じ『Macbeth 』であった。以後、シェイクスピア・イヴは、新島記念講堂で上演される機会が多くなっている。さらに、94年には大博多ホール(福岡)、翌95年には大阪リサイタルホールで記念講演が行われた。福岡での演目は『A Midsummer Night’s Dream (夏の夜の夢)』、大阪は『Hamlet 』であった。

リトリート・ワークキャンプ、サマーキャンプ・スキーキャンプ

女子大学発足間もない時期から始まった修養会は、現在もリトリートとして宗教部主催で年に2回、春と秋に実施されている。リトリートは、毎回講師を招いての講演と講師を囲む会を中心に、1泊2日にわたって実りある時を過ごすことを目的としている。学科、学年を超えて友人や教職員と語らい、またキャンドルライトサービスや聖日礼拝では、祈りとともに静かに時間を共有することを通して、参加者一人ひとりが自己のあり方を問い直す機会となっている。
1993年から始まった宗教部主催のワークキャンプは、福祉施設でのボランティア活動を目的とするプログラムである。参加学生と教員スタッフは、群馬県榛名町の社会福祉施設新生会老人福祉施設において、食事介助や散策介助を中心に、奉仕活動をしながら夏期休暇中の1週間を過ごす。学生たちは、さまざまな境遇を生きてきた高齢者と話す機会をもち、また施設職員の人びととの学習会のなかで生きることの意味を考えるなど、貴重な体験を重ねていく。プログラムの最終日には、新島襄によって建てられた日本基督教団安中教会(新島記念教会堂)における礼拝、および安中の新島邸の清掃作業も組まれている。また夏期および春期休暇中の行事として、学生部主催のサマーキャンプとスキーキャンプがあり、学生にも教職員にも楽しみなプログラムとなっている。サマーキャンプの場所は、瀬戸内海余島と清里野辺山高原がほぼ毎年交代となっており、余島では、マリンスポーツ、アーチェリー、テニス、陶芸などを楽しみ、野辺山高原では、散策、バードウオッチング、キャンプファイヤーなどを通して自然に親しむ。
スキーキャンプは、近年は毎年池の平スキー場にて行われ、5泊6日の期間中、参加者はみな、スキーの技を磨くことに専心する。しかし、修養会同様にキャンプもキリスト教教育活動の一環として始められた歴史的経緯があり、現在もその理念を継承して、夏冬いずれのキャンプも黙想の時間など神と語らう時が大切にされている。

  • 日本語日本文学会狂言鑑賞会 1998年の狂言鑑賞会では狂言上演に引き続き、観客参加のワークショップも行われた
    6-60 日本語日本文学会狂言鑑賞会 1998年の狂言鑑賞会では狂言上演に引き続き、観客参加のワークショップも行われた
  • 声楽コース生によるオペラ Le Nozze di Figaro (1993年3月初回上演)
    6-61 声楽コース生によるオペラ Le Nozze di Figaro (1993年3月初回上演)
  • 音楽学科定期演奏会 1996年から、当年秋に落成した京都コンサートホールで催されている 写真は1998年のプログラムのうち、97年度卒業生小島千絵子の作曲作品演奏
    6-62 音楽学科定期演奏会 1996年から、当年秋に落成した京都コンサートホールで催されている 写真は1998年のプログラムのうち、97年度卒業生小島千絵子の作曲作品演奏
  • 第22回定期演奏会(1992年)佐渡裕を指揮者に迎え、大阪シンフォニーホールで開催
    6-63 第22回定期演奏会(1992年)佐渡裕を指揮者に迎え、大阪シンフォニーホールで開催
  • Wolfgang Sigemann によるフルート公開レッスン(1992年)
    6-64 Wolfgang Sigemann によるフルート公開レッスン(1992年)
  • Silvain Guignard による音楽学科講座 演題は「筑前琵琶~五弦の美と語りの荘重~」(1997年)
    6-65 Silvain Guignard による音楽学科講座 演題は「筑前琵琶~五弦の美と語りの荘重~」(1997年)
  • 短期大学部公開講演会 1998年の演者、井上摩耶子フェミニストカウンセラー ミュージカル
    6-66 短期大学部公開講演会 1998年の演者、井上摩耶子フェミニストカウンセラー ミュージカル
  • 尾崎セミナーによる第1回公演 演目は My Fair Lady (1988年)
    6-67 尾崎セミナーによる第1回公演 演目は My Fair Lady (1988年)
  • 佐伯セミナーによる Fiddler on the Roof (1992年)
    6-68 佐伯セミナーによる Fiddler on the Roof (1992年)
  • 辻英子セミナーによる The Wizard of Oz (1995年)
    6-69 辻英子セミナーによる The Wizard of Oz (1995年)
  • シェイクスピア・プロダクション 第46回上演の演目は The Taming of the Shrew (1996年)
    6-70 シェイクスピア・プロダクション
    第46回上演の演目は The Taming of the Shrew (1996年)
  • ワークキャンプ 高齢者とのふれあいを通じて自己を見つめる(1996年)
    6-71 ワークキャンプ 高齢者とのふれあいを通じて自己を見つめる(1996年)
  • スキーキャンプ 妙高高原・池の平に集うスキーヤーたち(1989年)
    6-72 スキーキャンプ 妙高高原・池の平に集うスキーヤーたち(1989年)
  • 1996年春期リトリート フォトジャーナリストの桃井和馬・岸田綾子夫妻を講師に迎え、エイズ、戦争などの問題について考える機会をもった
    6-73 1996年春期リトリート フォトジャーナリストの桃井和馬・岸田綾子夫妻を講師に迎え、エイズ、戦争などの問題について考える機会をもった
  • 1999年春期リトリート 教会音楽家久米小百合(元歌手・久保田早紀)を講師に迎え、「私(じぶん)というオリジナル」を見つけることの大切さをともに考えた
    6-74 1999年春期リトリート 教会音楽家久米小百合(元歌手・久保田早紀)を講師に迎え、「私(じぶん)というオリジナル」を見つけることの大切さをともに考えた
  • サマーキャンプ 瀬戸内海・余島でフィッシングを楽しむ(1985年)
    6-75 サマーキャンプ 瀬戸内海・余島でフィッシングを楽しむ(1985年)
  • サマーキャンプ歴代のしおり
    6-76 サマーキャンプ歴代のしおり
  • サマーキャンプ 清里・野辺山高原の緑の中で讃美歌を歌う(1986年)
    6-77 サマーキャンプ 清里・野辺山高原の緑の中で讃美歌を歌う(1986年)



記念写真誌 同志社女子大学125年