第3章 景観形成と増築計画について

3棟あわせてのプロポーション調整

同志社コンパウンドの3棟に倣い、耐火性能と構造強度を重視して煉瓦造で計画したのだと思われる(着工の遅かった栄光館は鉄筋コンクリート造に変わっている)。中央の栄光館の時計塔部分を3階とするほかは2階建で、全体として絶妙の縦横比で構成されている。これは、黄金比と正方形を組み合わせた寸法法則を用いつつ、3棟合わせた立面図上で入念にプロポーションを検討した成果であろうか? 形は各々異なるものの、寸法体系と比例法則を統一することによって、非常に統合感の高い景観を形成している。日本の伝統建築に造詣が深く、西洋のプロポーション理論を積極的に取り入れようとした武田五一のデザイン力を如実に示す建築群と言えよう。なお、黄金比の採用については足立裕司氏、配置の法則性については、前久男氏の研究に詳しいので参照されたい。

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H型平面形状のメリット

平面計画上も外観と同様の寸法体系が展開されており、煉瓦壁がバランス良く配置できるようになっている。[板状中(片)廊下]や [ロの字囲み型]としなかったのは、北側に別建物があり、ロの字にするには奥行きが不足していたこと、片廊下では規模が満足できず、煉瓦壁量も十分でなかったこと、中廊下では居室環境が悪化するなどの理由があったからであろう。結果的には北側別棟の日照条件なども満足しつつ、中庭に面して3方開口のある室が設けられ、明るく風通しの良い、十分な広さの教室が提供できたようである。
「教室は静和館と目下建設中のゼームズ館とが主要のものになる。(中略)此2建築及び在来の木造教場を併用し、更に料理室其の他1、2の特別教室を追って増築すれば今後15年ないし20年間は教場の狭隘を感ずることはない。静和館及ゼームズ館の建築は教室としてはかなり立派である。女学校にして斯くの如き立派なる教室を有するところは稀である。日本の今日の国力では女学校のために煉瓦石造の立派なる教場を建てるのは頗る困難である。併し教場の立派と云ふ事は生徒の品性上に影響を及ぼす事が大い、殊に女子の場合に於て然りである。同志社女学校の教室は強固であり、摯実であり、閑雅であり、且清潔である。而して空気、日光の流通は甚だ佳い。加之四山風色の美は坐からにして之を教室に聚めて居る。静和館及ゼームス館とも女学校の教室としては殆ど理想的のものである。」(『同志社女学校期報』第35号;1914年松本博士寄稿)から読み取れるように、当時の女子教育の最先端プロジェクトだとも捉えられる。
竣工後、ミス・デントンは御自慢の学び舎を生徒達が大切にするよう「お掃除は丁寧に」「床に傷をつけないようにフェルト底の上履きにしなさい」などなど、口喧しかったそうである。

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装飾は控え目にして3棟の統合感を

栄光館は時計塔3階部を8角形の瞑想室とし寄せ棟の勾配屋根をかけ、その下部に3連アーチの開口部と立派な石造風の柱とキャノピーを持つエントランスを設けて、キリスト教主義学校らしさを漂わせ、これを中心に左右対称の構成としている。ジェームズ館と静和館は、後にこの栄光館が中心に建つことを前提として、全体の対称性を損うことがないように、栄光館よりも装飾性を抑えつつ、ほぼ同様のデザインでまとめたものと思われる。
ジェームズ館、旧静和館ともに、単体でも左右対称のデザインとなっており、3棟全体での対称性と重なりあって、自然なハーモニーを奏でている。
京都御苑の北正面と相国寺門前に位置することも、3棟全体に洋風の装飾を強く施すことをためらわせたと想像される。実際、当時の京都において同志社は、“耶蘇教”に対する異端視の圧力を受けており、目立つ場所で本格的な西洋風キリスト教建築を建てることは、はばかられたのであろう。
ちなみに、同志社の重要文化財が全て和瓦で葺かれたのは、洋瓦が入手困難だったこともあろうが、京都の街並みとの調和のためではなかろうか。(例外的にクラーク記念館の尖塔は銅板で葺かれている)

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福祉対応エレベーターを中庭側に増築

今回の保存改修の主目的である、今出川キャンパスのコミュニティーセンターとしての活用を考えた時、車椅子利用者などのための2階へのエレベーターと、1階床までの進入スロープ、さらには便所の新設が求められた。外観保全の観点から内部に設置することも考えたが、エレベーターは屋根架構をバラさないと設置できないこと、便所は、インテリアを著しく変更することになること、などから、H型プランの中庭部に設置することにした。
ここは構内の学生動線としても便利な位置であること、旧来も憩いのスペースとして池が配されていたことも考え合わせ、エレベーターと便所をツインタワー状にして中庭中央部に建て、ジェームズ館とブリッジでつなぎ、その周囲を水上テラス風の屋外ラウンジとして刷新する計画とした。

改修 北立面図


ジェームズ館探訪