東の「ペヤング」と西の「UFO」―カップ焼きそばの分布―

2022/09/05

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

昨年(2021年)、日清の「カップヌードル」が50周年を迎えて盛り上がりました。また地味ながら、「UFO」45周年でもありました。そこであらためてカップ焼きそばについて調べてみた次第です。

以前、「関東と関西の違い」というコラムで、カップ焼きそばにも関東と関西で違っていることを書きました。しかし「ペヤング」と「UFO」の二大勢力の説明だけでは中途半端だったようです。というのも、北海道では圧倒的に「やきそば弁当」(東洋水産)が勢力を誇っているし、東北でも「焼きそばバゴォーン」(東洋水産)が他を圧倒していることがわかりました。また四国では「一平ちゃん」(明星)もかなり頑張っています。

カップ焼きそばの歴史は「カップヌードル」より新しく、昭和49年7月に恵比寿産業から発売された「エビスカップ焼きそば」でした(今はありません)。翌8月にヤマダイの「ニュータッチ焼きそば」、12月にエースコックの「カップ焼きそばBanBan」が発売されています。翌昭和50年に東洋水産の「マルちゃん焼きそば弁当」と、まるか食品の「ペヤングソース焼きそば」が発売されました。日清食品は昭和46年に売り出したカップヌードルの営業が忙しかったのか、遅れて昭和51年5月にやっと「UFO」を販売しています。ところがCMにピンクレディーを起用したことが大当たりし、なんとカップ焼きそばの売り上げの60パーセントを占めたそうです。

ところで「ペヤング」(まるか食品)にしろ「UFO」(日清食品)にしろ、その名称が焼きそばと関係があるのかないのか、わかりにくいとは思いませんか。そこで由来を調べてみると、「ペヤング」は「ペア」と「ヤング」を合体させたもの(日本語英語)だということがわかりました。若い二人が一緒に食べることをイメージしたそうです(二人分)。だから麺の分量が他社より多くなっていたのです。

「ペヤング」がその名を有名にしたのは、CMに九代目桂文楽師匠を起用してからでした。師匠は顔が四角だったことで、四角い容器のCMに起用されたのです。そこで短く「ペヤングソース焼きそば」と言ったところ、それが話題になって定着・流行したとのことです。その後、「ペヨング」という似た名前の商品が出ました。どこかの国のバッタもんかと思ったら、まぎれもなくまるか食品の商品でした。その最大の違いはというと、「ペヨング」の方がペヤングより50円近くも安くなっていることです。なんと「ペヨング」は「ペヤング」の廉価版だったのです。

一方の「UFO」はピンクレディの歌にあるように、未確認飛行物体(空飛ぶ円盤)を想像していたら、実は「Uうまい、F太い、O大きい」の頭文字から付けたとのことです。でも容器を丸くしているのは、きっと空飛ぶ円盤を意識しているからだろうと勘ぐっています。説明では、焼きそばを盛る皿が丸い皿だからだそうです。みなさんはそれで納得できますか。

どうやら「UFO」の販売に難色を示したのは、創業者の百福さんだったようです。それに対して強硬に「UFO」を主張したのは、百福さんの二男・安藤宏基さんでした。その宏基さんは容器開発中に、丸い容器を飛ばしてみたこともあるそうです。ですから宏基さんの頭には未確認飛行物体のことがあったようです。たまたま起こったUFOブームに便乗するように、売り上げはぐんぐん伸びました。もちろんピンクレディーの宣伝効果も高かったに違いありません。

ところが問題がありました。その時既に「UFO」が商標登録されていたからです。そこで考えたのが「UFO」に省略記号を付けることでした。気が付いていない人もいるかもしれませんが、よく見ると「U.F.O.」と点が付いています。これでなんとか免れたのだそうです。

こうして45年経った今も、人気商品として売れ続けています。ご存じかと思いますが、焼きそばの麺の量はインスタントラーメンの1.5倍もありました。これは汁がない分、麺だけで満腹感を出すための戦略です。中でも「ペヤング」はレギュラーを120グラムに増量しました。それでも十分ビッグなのですが、さらに超大盛(237グラム)、超超超大盛(ギガマックス439グラム)、ペタマックス(878グラム)と増量に走っています。これはとんでもない分量ですから、「絶対に一人で食べないでください」と注意書きされています。関西の人も是非一度家族で食べてみてください。

両メーカーとも開発にはしのぎをけずってきました。中には評判が悪くてすぐに消えていった新製品(失敗作)もあります。たとえば「熱帯UFO」は海外を強く意識したものですが、評判は今一でした。一方の「ペヤング」では、「チョコレート焼きそばギリ」があげられます。おわかりのようにバレンタインを狙ったものですが、バレンタインが過ぎると在庫の山が残りました。それに懲りたのか、以後は逆に激辛に向かっています。「獄激辛やきそば」などは案外売れています。カップ焼きそばの食べ比べも悪くないですね。

※所属・役職は掲載時のものです。