2月が28日のわけ

2019/02/21

吉海 直人(日本語日本文学科 教授)

NHKテレビの「チコちゃんに叱られる」で、「なぜ2月は28日までしかないの?」という質問がありました。その答えがやや曖昧だったので、ここでもう少し補足説明することにします。なお余計なことかもしれませんが、この問題は10年以上前にフジテレビの「理由ある太郎」で出題されたものでした。

最初に2月28日は、日本の暦ではありえなかったことをいっておきます。いわゆる旧暦は月の運行が基準になっていますから、1ヶ月は29.5日でした。それを大の月(30日)と小の月(29日)に分けるので、そもそも28日という月などありえません。

それが明治6年に西洋の太陽暦(グレゴリオ暦)を導入したことで、初めて2月が28日になったというわけです。当然その理由は外国の暦に求めなければならないことになります。その大本は古代ローマの暦です。もっとも暦というのは農耕のために必要なものだったので、古くはギリシャの太陰暦が基本でした。

ただし当時偶数が忌避されていたこともあり、ヌマ暦では31日(4回)と29日(8回)に分けられていたようです。そうなると1年が356日(偶数)になるので、どの月かを1日減らさなければなりません。そのために2月から1日減らして28日になったというわけです。では何故2月かというと、当時1年は3月から始まっていたからです。農耕ですから春の種まきが1年の始まりだったのです。そうなると2月は1年の終りに当ります。だから2月で年末調整が行なわれたというわけです。

かつて1年が3月から始まっていたことの名残が、現在も9月と10月の英語名に認められます。9月はセプテンバーですが、これはセブンと同じ語源です。また10月のオクトーバーは、蛸のオクトパスあるいは音楽のオクターブと同じく8(ラテン語のオクト)を意味します。ガソリンで使うハイオクのオクタンも同様ですし、株札のおいちょかぶの「おいちょ」も8を意味するポルトガル語(Oito)でした。

これを1月から数えると数字が2ヶ月ずれてしまいますが、3月から数えてみるとピッタリしていることがわかります(7・8番目)。3月始まりだった暦をジュリアス・シーザーが1月から始めたことの歪みが、月の名称に残っているというわけです。

ついでながら7月は、かつては5を意味するキンテリス(Quintilis)でしたが、シーザーが自らの誕生月である7月をジュライ(Julius)に改めたといわれています。それだけでなく続く初代ローマ帝王アウグスツスも、シーザーに倣って自分の誕生月であるセクスティリス(Sextilis)をオーガスト(Augustus)に改名したといわれています。

その際、アウグスツスはユリウス暦では8月が30日しかないことに不満を抱き、無理に8月を31日にしました。そうなるとどこかの月を1日減らさなければなりません。当時のユリウス暦(太陽暦)は1年が365日だったので、2月は29日になっていました。それがアウグスツスのせいで、またもや28日に減らされてしまったのです。なんと2月は太陰暦と太陽暦と、2度も28日に調製されたのです。

なお、シーザーとアウグスツスの2人が自分の名前を付けた7月と8月を暦に挿入したために、9月と10月の数字が2つ後にずれたとまことしやかに説明しているものもありますが、それは間違いです。挿入したのではなく名前を変えただけだからです。いずれにしても1年が3月から始まるという基本さえ押さえておけば、ほぼ合理的な説明がつくようです。

 

※所属・役職は掲載時のものです。