絆創膏の話

2018/06/21

吉海 直人(日本語日本文学科 教授)

「内股膏薬(ごうやく)」ということわざを知っていますか。「二股膏薬」とか「股座(またぐら)膏薬」も同じ意味です。膏薬(こうやく)(塗り薬)を内股に付けると、歩くたびに右に付いたり左に付いたりすることから、自分の定見がなく都合によってあっちに付いたりこっちに付いたりする人のことをいいます。

その膏薬を紙や布に塗って体に張り付けるのが絆創膏の役目でした。それが改良され、簡単に傷口などに貼れる救急絆創膏が考案されると、たちまち家庭の常備薬(品)となり、さまざまな商品が登場しています。その代表は、なんといってもバンドエイド(ジョンソン・エンド・ジョンソン)でしょう。その他、リバテープ(リバテープ製薬)、キズガード(大正製薬)、カットバン(祐徳薬品工業)、サビオ(ニチバン→ライオン)、オーキュバン(ニチバン)、キズバン(ライト株式会社)などの商品名で実に様々な商品が販売されています。

これらは発売元の製薬会社による商品名の違いなのですが、面白いことに地域によって呼び名の違いが生じています。所変われば品変わるといいますが、まず昔ながらの絆創膏(ばんそうこう)が日本の真ん中(北陸・信越・静岡)を占めています(救急絆創膏とは言わないようです)。バンドエイドはそれを挟み込むように、関東と近畿にかけて広まっています。というより大都市のシェアーが多いことがわかります。

カットバンはさらにその外側を取り囲むように東北・中国・四国に広がっています。サビオは北海道が中心ですが、何故か和歌山と広島がサビオ派になっています。CMの影響とも言われていますが、この飛び地の謎は未だ解明されていません。それに対してリバテープは九州・沖縄に偏っています。かなりはっきりとした地域差が出ていますね。テレビの「秘密のケンミンSHOW」で取り上げられてもおかしくないかと思います。

そのカットバンを製造している祐徳薬品工業は佐賀県の会社なのに、九州では熊本発祥の商品であるリバテープに押されているようです。私は長崎県生まれですが、確かに小さい頃リバテープといっていた記憶があります。ただし長崎県全般はカットバンが主流とされているので、地域差といっても微妙です。

なお絆創膏が主流の北陸の中でも、富山だけはキズバンと称しているそうです。そのためキズバンと口にしたら富山県人と思ってまず間違いないとまでいわれています。製造しているライト株式会社は、実はゴルフ用品のメーカーでした。富山にたくさんあるゴルフ場でゴルフ用に販売されたことから、この名称が定着したとされています。

もう一つの不思議が奈良県にありました。奈良ではリバテープ派が多いのですが、それはいわゆるリバテープとは別の商品です。奈良にある共立薬品工業のキズリバテープが正式商品名なのですが、「キズ」を省略して「リバテープ」と称しているため、他商品との混同が生じているようです。ただし両者の違いはほとんど意識されていないのではないでしょうか。

知名度の高いバンドエイドはアメリカの製品で、1921年に考案された最も古い救急絆創膏でした。日本ではニチバンが1948年にニチバンQQ絆創膏という商品名で販売したのが最初だとされています。「QQ」はもちろん「救急」を掛けています。またセロテープでも有名なニチバンは、スエーデンのセデロース社のブランドであるサビオも扱っていましたが、後にオーキュバンという独自ブランドを立ち上げたことで、サビオをライオン歯磨に譲りました。その後、サビオは2002年に製造中止になっていますが、その名称だけは今も北海道に残っているようです。

たかが絆創膏ですが、地域によってこんなに明確に呼称が違っているのです。不思議な現象ですね。ところであなたは絆創膏のことを何と呼んでいますか。

 

※所属・役職は掲載時のものです。