JR京都駅0番ホームの謎

2018/05/28

吉海 直人(日本語日本文学科 教授)

JR京都駅の中央改札口(烏丸口)を入ってすぐの0番ホームは、かつて豊臣秀吉が築いた御土居跡の盛り土を利用して作られたものといわれていました。しかしながら近年の発掘調査によって、御土居そのものではなく御土居に附随する堀の跡であることが判明しました。御土居があったのは現在の駅ビルの下だったのですが、とっくの昔に壊されていたのです。

ところが京都検定の問題に、「京都駅には、御土居(土塁)を活用して作られたプラットホームがある。現在の何番ホームか」という問題が出され、0番ホームが正解とされました。そのためすぐに間違いではないかという問い合わせがあったようです。それに対して「御土居堀跡」も御土居の一部という回答で、訂正は行なわれませんでした。

その堀跡にある0番ホームですが、ホームにある「0」という表示を見て珍しいと思いませんでしたか。実は駅の改修の都合などで、全国の四十ほどの駅(長崎・熊本・盛岡・白浜など)に0番ホームがあるそうです。ですからそんなに珍しいものではありません。熊本駅など0Aから0Cまで0番が三つもあるそうです。その0番ホームから、向いのホームの表示を見てください。そこには「2」と記されています。そう、京都駅には1番ホームが存在しないのです。

古い京都駅をご存じの人は、昔は0番ではなく1番ホームだったぞとおっしゃるかもしれません。事の起こりは平安遷都1200年記念事業でした。それにあわせて京都駅も大改修が行なわれました(激しい景観論争もありましたね)。観光地京都ですから、駅には多くの電車が発着しています。京都駅は在来線特急発着の種類が最も多い駅でもあります。それに合わせて線路の増設が行なわれ、在来線が11本になりました。ところが11番から14番まではJR東海が管轄する新幹線のホームの番号に振り当てられていたので、在来線を管轄するJR西日本は11番が使えません。そこで10番までに収めるために遡って0番を使うことにしたわけです。ただし今度は線路に付けられた0番線と、ホームに表示された1番ホームのズレが混乱を招く元凶になってしまいました。

そこで2002年3月に1番ホームを線路に合わせて0番ホームと訂正しました。それなら旧2番ホームが連動して1番ホームになってもおかしくありませんよね。でも2番ホームはそのままでした。そのため1番ホームだけが消滅したわけです。この説明でまだ納得できない人は、現場に行って線路をよく見てください。0番線と2番線の間にもう一本線路があることに気付くはずです。実はこれが幻の1番線なのです。もともと貨物列車や回送電車の通過専用だったので、最初からホームはありませんでした。これが京都駅に1番ホームがない理由だったのです。

ところで京都駅には34番ホーム(降車専用)があります。これば全国の駅の中で一番大きな数だそうです。でも調べてみると、実際には19しかありません。そのからくりは15番から29番までが空白だからです。これは一体どうしてなのでしょうか。それはJRが言語遊戯というか語呂合わせをしているからでした。山陰線のホームは31番から34番までなのですが、「さんいん」という発音に「31」という数字を充てようとして、それ以前の数字を飛ばしてしまったのです。JRも洒落たことをしますね。

最後にもう一つの0番ホームの謎に迫ります。実は0番ホームは日本一長いホームとして知られています。もちろん在来線でそんなに長い車両などありません。その理由は、0番ホームの西にもう一つ30番ホームが続いているからです。30番ホームは関西空港行きの特急はるか専用ホームです。0番ホームの長さが323メートルで、30番ホームが235メートルですから、合せると558メートルになります。新幹線のホーム(400メートル強)よりもずっと長いのです。京都駅って面白いですね。

 

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