たまごボーロの秘密

2017/07/21

吉海 直人(日本語日本文学科 教授)

主に赤ちゃんが食べる、小さくて丸くて、口に入れるとすぐ溶けるお菓子、みなさんはなんという名前で呼んでいますか。「たまごボーロ」ですか、「エイセイボーロ」ですか、それとも「乳ボーロ」ですか。どうやらこのお菓子には、地域によっていろいろな名前が付けられているようです。

そもそも「ボーロ」は、外国語でお菓子を意味する言葉だそうです。カステラと同様に、ポルトガルから伝来したという説も有力です。ここで一つ問題が生じました。佐賀の銘菓(北島・村岡屋・鶴屋など)に「丸ぼうろ」(丸芳露・丸房露・丸ボーロ)という有名なお菓子があります。福岡の千鳥屋からも、同じく「丸ぼうろ」が販売されています。また大分にもあるので、広く九州銘菓とすべきかもしれません。

その「丸ぼうろ」は、問題の「たまごボーロ」とは別物の円盤型のお菓子なのですが、「丸」から粒が連想されることで、いつしか広く「たまごボーロ」の別称にも用いられています。そのために混乱(取り違え)が生じるわけです。

ある日、佐賀県出身の男性が、奥さんから「丸ぼーろ」買ってきてと頼まれました。奥さんは「たまごボーロ」がほしかったのですが、夫は当然のように北島の丸ぼうろ(佐賀銘菓)を買って帰りました。待っていた奥さんが、それは「丸ぼーろ」ではないと怒ったのは言うまでもありません。佐賀県出身の人はくれぐれも御注意下さい。

それだけではありません。発音がよく似た「マールボロ」もあります。これはフィリプモリス社から販売されているタバコの銘柄ですが、「マルボロ」とも言われているので、「丸ぼーろ」と聞き間違う可能性があるので、これも気をつけて下さい。

さて本題に入ります。大雑把に地域による名称の違いをあげると、名古屋以北では「たまごボーロ」、京都では「エイセイボーロ」、大阪では「乳ぼーろ」と称されています。また九州では、「丸ボーロ」との混乱を避けるためか、「栄養ボーロ」という名称が多いそうです。これは京都の「エイセイボーロ」のもじりかもしれません。

もちろん一口に「たまごボーロ」といっても、メーカーによって微妙に表記が異なっています(商標登録はされていません)。東京の田中屋製菓がズバリ「たまごボーロ」で、名古屋の岩本製菓や竹田製菓は「タマゴボーロ」になっています。他に「卵ボーロ」もあります。京都の西村衛生ボーロ本舗(老舗)が「エイセイボーロ」の発信元で、大阪の前田製菓が関西らしい「乳ボーロ」となっています。

これだけならいいのですが、「たまご」系は「卵黄ボーロ」「卵卵ボーロ」などの他、「たまごぼうろ」「タマゴ生ボーロ」「TAMAGO BORO」、さらには発展形の「ひよこボーロ」まで登場しています。

「乳ボーロ」系は当然ながら「ミルクボーロ」があり、「エイセイボーロ」系は「衛生ぼーろ」「エーセーボーロ」が見つかりました。北海道では池田食品が「ミルクボーロ」という名称で販売しているので、これも地域名として定着しているかもしれません。

その他、粒が小さいことから「プチボーロ」「ミニボーロ」と名付けられたり、赤ちゃん用ということで「ベビーボーロ」という名前も見つかりました。最近ではかぼちゃ入りの「かぼちゃボーロ」、蜂蜜を加えた「はちみつボーロ」、チョコやホワイトチョコでコーティングした「チョコボーロ」「雪ボーロ」などの新種も登場しています。

いかがですか、「たまごボーロ」の世界も奥深いですね。

※所属・役職は掲載時のものです。