京都看病婦学校をご存じですか

2014/04/01

吉海 直人 (日本語日本文学科 教授)

みなさん、京都看病婦学校をご存じですか。今の同志社ではあまり知られていないかもしれませんね。名称は「京都」となっていますが、同志社の経営する学校でした。

明治16年、アメリカ人宣教医で名医として名高いジョン・ベリーが、岡山から同志社に招聘(しょうへい)されました。当初、襄はベリーと一緒に医学校設立をめざしたようです。それが不可能と見るや、今度は看病婦学校を設立すべく奔走しました。まず明治19年9月、ベリーはデイヴィス邸で仮診療所を開業し、診療と看護教育を始めています。そのために、最新の看護法(ナイチンゲール方式)を身につけたアメリカ人宣教師リンダ・リチャーズが、明治19年1月に来日しています。この2人の協力によって、京都における近代的な看護婦養成学校の設立が実現したのです。

明治20年8月に京都府の認可を受け、11月15日に京都看病婦学校と同志社病院の開校式が盛大に行われました。これは日本で2番目に古い看護婦学校とされています(1番は明治18年開校の有志共立東京病院看護婦教育所)。またここでは日本における先駆けとして、巡回看護(訪問看護)も実践しています。

明治21年6月には、早くも第1回卒業生4名が巣立っています。翌年6月には第2回卒業生として7名の看護婦が卒業していますが、その中に新島襄を看取った北里(不破)ユウ(京都大学医学部附属病院初代看護部長)が含まれています。また明治27年の日清戦争の折には、卒業生5名と在学生2名の計7名が広島予備病院に従軍しています。

後に同志社は経営上の問題から看病婦学校の経営を移譲しますが、それを譲り受けたのは医師・佐伯理一郎でした。彼の著した『京都看病婦学校五十年史』によれば、開校してから50年の間に、看護婦734名・マッサージ師120名を輩出しています。その内、理一郎赴任前の卒業生はわずかに23名であり、それ以外は全員理一郎の教えを受けているそうです。また理一郎は産婦人科が専門(津村順天堂の中将湯にも関わっています)ということで、新たに京都産婆学校も併設しており、その卒業生は実に2120名にも及んでいます。こうしてみると、ジョン・ベリーやリンダ・リチャーズの功績ももちろん大きいのですが、京都看病婦学校最大の功労者は佐伯理一郎と言えるかもしれません。

ところで、新島八重のことを調べていて「上毛教界月報」(大久保真次郎発行・柏木義円編集)の中に興味深い記事を見つけたのでここに紹介します。それは「同志社看病婦学校の好評」という見出しで、「衛生局長長谷川泰氏より同学校長への書状」が紹介されている記事です。文面は、

貴社御養成の看護姉は、其品行技倆共地方に於て好評之有候に付、地方看護姉養成所の教師又は病院の看護姉として雇聘(こへい)の場合には、貴社の卒業生紹介致度候間、今後府県廳等より貴社に申出候際には御撰抜の上、可成其聘に応じしめられ候様致度、此段御依頼申出置候。(「上毛教界月報」10・明治32年8月15日)

となっています。

多少の身びいきを割り引いたとしても、当時の看病婦学校の好評判を知る資料として重要でしょう。ここで最初に注目したいのは、その名称の揺れについてです。見出しに「同志社看病婦学校」とありますが、これは「京都看病婦学校」のことで間違いありません。京都市民の寄付を受けていたことから、「同志社」を冠さなかったものの、同志社側の意識としては「同志社看病婦学校」だったことが察せられます(聖書の授業もありました)。

次に注目したいのは、「看護姉」という表現です。これなど「看護師」という表記の方がふさわしいでしょう。その時代であれば、「看護婦」の方が普通かもしれません。それにもかかわらず「看護姉」と表記しているのは、手紙の差出人である内務省衛生局長の用語でしょうか。いずれにしても「看護姉」という表現は、看護学分野では定着しなかったようです。

さて、ここでもっとも注目すべきは、卒業生達のはなばなしい活躍です。京都看病婦学校を巣立った看護姉達は、「品行技倆」共に申し分のない立派な看護師として現場で評判になっているとあります。そこで今後はそちらの卒業生を優先的に教師あるいは看護師として紹介したいから、その節は候補者を送り出してほしいという依頼になっています。当時の「衛生局長」というのはかなりのお偉いさんですから、こんな名誉な依頼はありません。京都看病婦学校の面目躍如といったところです。

なお、京都看病婦学校は、残念なことに第二次世界大戦後の看護教育の新制度施行に伴い廃校になりました。その志と伝統を継ぐべく、同志社女子大学では平成27年4月に看護学部が新設されます。ここで良心と愛を持った「看護師のお手本となるような看護師」「看護師の中の看護師」が養成され、卒業生が世界中で活躍することを期待しています。

 

※所属・役職は掲載時のものです。