冬至についての基礎知識

2019/12/09

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

令和元年の冬至は12月22日になっています。ご存じとは思いますが、冬至は24節季の1つです。1年のうちで太陽の南中高度が最も低くなり、そのため昼が最も短い日となっています(反対に夜は最も長くなります)。天文学的には、太陽黄経がちょうど270度になる瞬間が冬至と定義されています。その瞬間を含む日が冬至日というわけです。その日はほぼ12月22日に当っています(ただし来年は21日)。

この日、日本では柚子を入れた冬至風呂に入る風習がありますが、それは江戸時代に銭湯で始まったことのようです。おそらく冬至は「湯治」の駄洒落、柚子は「融通がきく」の駄洒落なのでしょう。またこの日には冬至粥(小豆粥)・冬至かぼちゃ・冬至こんにゃくなどを食べる風習があります。そこには暖まって風邪を引かず、無事に寒い冬を乗りきりたいという人々の願いが込められているのです。

そのためかぼちゃや大根には中風・ぼけ封じ、こんにゃくには体内の悪いものを掃除するという薬用効果が期待されています。冬になると野菜が収穫されなくなるので、保存のきくかぼちゃは貴重な栄養源だったのです。成分分析の結果、カロチンを豊富に含むかぼちゃは体内でビタミンAとなり、風邪や動脈硬化の予防に効果があることがわかりました。これは昔の人の知恵だったのです。

また冬至には「と」の付くものを食べると縁起がいいということで、豆腐・唐辛子・どじょう・とろろ・トマト・豚汁・とり肉・トンカツ・とうもろこしなどを食べる風習もあるようです。もう1つは「ん」の付くものを食べるというもので、先にあげた大根やこんにゃくもこれにあてはまります。りんごやみかん・こんぶ・ほうれん草・ラーメン・にんにく・プリン・レーズン・ナンもあげられます。

かぼちゃに「ん」はありませんが、別称としての「南京」には「ん」が2つも含まれています。他に人参・蓮根・金柑・銀杏・寒天・うんどん(饂飩)・ハンペン・あんまん・あんパンなどがあげられます。「ん」が2つ付いているものは、より効果がある(運が付く)と信じられているようです。・ジンギスカンでもけんちん汁でも構いません。タンタン麺など「ん」が3つも入っています。

この中ではかぼちゃが一番有名ですね。かぼちゃの原産地は中南米(暖かい土地)とされていますが、日本には東南アジアのカンボジアからポルトガル人によってもたらされました。最初に上陸したのは大分とも長崎ともされています。天文年間、大分に漂着したポルトガル船から、豊後の国の大名・大伴宗麟に献上されたのがかぼちゃの起源(大分説)というわけです。そのため九州にはポルトガル語の「ボウブラ」もかぼちゃの別称として使われています(民謡の「おてもやん」にも出てきます)。

もともとはカンボジア産の野菜あるいは瓜という意味だったのでしょうが、いつしか野菜そのものの名前として定着しました。それはインドネシアのジャカルタからジャカルタ芋がもたらされ、いつしかじゃがいもになった経緯と同じです。

その後、中国にもかぼちゃが広まり、南京からもかぼちゃが輸入されるようになると、かぼちゃの別称として南京とか唐茄子という名も使われるようになりました。落語にも「唐茄子屋」という演目がありますね。なお南京からは様々なものが日本にもたらされています。南京米を入れた袋が南京袋だし、落花生のことは南京豆だし、錠前にも南京錠があります。血を吸う南京虫だけは遠慮したいですね。

もちろん冬至の起源は中国にあります。昔、遣唐使によって中国から日本に冬至の行事が伝えられ、それが宮中行事として定着しました。『続日本紀』神亀2年(725年)11月10日条に、「天皇御大安殿受冬至賀辞」とあるのが初出とされています。この天皇は聖武天皇のことです。また江戸時代に「唐の正月」という言葉があるのは、中国では冬至を元旦と考えていたからでした。確かに冬至を過ぎると徐々に日が長くなるのですから、冬至を一年の始まりとするのも納得できます。

 

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