「すばる」からの連想

2019/07/22

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

みなさんは「すばる」という言葉から何を連想しますか。おうし座にあるプレアデス星団(M45)の星でしょうか。星好きの人はハワイにあるスバル望遠鏡かもしれません。宮沢賢治ファンの人なら、彼の詩集『春と修羅』にある「昴」でしょうね。あるいは若い人は大ヒットした谷村新司の「昴」という曲を思い浮かべるかと思います。

それ以外に明治時代の文芸雑誌があるし、スバル文学賞もあります。かつて国鉄時代には東京大阪間の夜行急行の名称にも用いられていました。京都には府立京都すばる高等学校もあります。その他、焼酎の銘柄や浅田次郎作の『蒼穹の昴』や曽田正人のマンガも有名ですね。

私は幼い頃の思い出として、富士重工の「スバル360」(愛称てんとう虫)という軽自動車のことが思い浮かびます。その頃は、「スバル」というカタカナ表記から、外国語だろうと思っていました。後でそれが日本語というか古語だと知って驚いた経験があります(バラも同様です)。

古典で一番古い例は、『古事記』の「いほつみすまるのたま」です。『万葉集』にも「すまるのたま」とあります。有名なのは、『枕草子』の「星はすばる」(236段)でしょう。当時もかなり知名度があったらしく、『倭名類聚抄』という古い辞書の「昴星」項には、「和名須波流六星」と説明されています。

もちろん「昴(ぼう)」は中国の星座の名称です(28宿の一つ)。それが日本に伝来して「すばる」という訓読語ができたわけですが、面白いことに中国と日本では星の数に違いが生じています。もともと「すばる」には「統ばる・統べる」という字が用いられており、その意味は一括りにする、まとめるということでした。前述の「いほつみすまるのたま」を起源と考える説もありますが、この例は星とは無縁なのでここでは触れないことにします。

ではここで質問です。みなさんは夜空に輝く「すばる」を見て、星がいくつ見えますか。その答えは大きく6つ派と7つ派に分かれています。本当はもっと多くの星が寄り集まっているのですが、肉眼ではなかなか判別できません。日本では古くから「六連星(むつらぼし)」と称されていることから、6つと認識されていたことがわかります。

ところが古い『丹後国風土記逸文』には、「其七豎子者昴星也」とあって、どうやら中国では7つと認識されていたようなのです。これは西洋も同様で、ギリシャ神話ではプレアデス7人姉妹となっており、7つだったことがわかります。だからこそ「セブンシスターズ」と称されているのです。目のいい人は肉眼で20個以上見分けられたそうです。ひょっとすると日本人は、中国人や西洋人よりも近眼だったのかもしれませんね。

そういえば私の記憶では、「スバル360」には6つの星のマークが付いていました。調べてみると、たまたま中島飛行機系列の6社が結集して、富士重工業という大きな企業を設立したことによるものでした(現在はSUBARU)。ただし星の大きさが違います。小さな5つの星が5社で、1つだけ大きな星があるのが富士重工業を表しているとのことです。スバル360、もう一度乗ってみたいな。

 

※所属・役職は掲載時のものです。