いちご記念日(1月15日)

2020/01/07

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

以下にあげた名前は何の品種か、おわかりになりますか。

咲姫・桜桃壱号・和田初恋・かおり野・ペチカ・夏娘・サマープリンセス・紅ほっぺ・アマテラス・あかねっ娘・レッドパール・雷峰・もういっこ

これはお米やブドウではありません。メロンでもさくらんぼでもありません。ヒントとして、とちおとめ(栃木県)・あまおう(福岡県)・あすかルビー(奈良県)といったら、もうおわかりですね。そう、これらはいちご(苺)の品種に付けられた名前です。桜桃壱号の「壱号」にはもちろん「苺」が掛けられています。最近は品種の改良が盛んで、淡雪(白いちご)までできています。私にはもう付いていけそうもありません。

そこでいちごについて、ちょっと勉強してみることにしました。まず植物学上の分類ですが、なんといちごはリンゴや梨・さくらんぼと同じくバラ科の多年草だそうです。木でもないのにちょっと変ですよね。次にいちごの原産地ですが、古代のいちごはほぼ野いちご系で、世界中に分布していました。ただし、たいしておいしいものではなかったようです。

もちろん日本にも自生しており、古くは『日本書紀』に「いちびこ」と出ています。10世紀成立の『本草和名』や『倭名類聚抄』などには「以知古」とあるので、「いちびこ」から「いちこ」に変化したことがわかります。古典文学にほとんど登場していませんが、何故か『枕草子』には2度も出ています。1つは40段「あてなるもの」に、「いみじううつくしきちごのいちごなど食ひたる」とあり、また147段「名おそろしきもの」に、「くちなはいちご」と出ています。この例によって当時いちごが食されていたこと、また蛇いちごの古名もわかります。「ちごのいちご」は駄洒落なのかもしれません。

現在のような甘いいちごは、19世紀のオランダで改良されたものでした。世界を股にかけて交易していたオランダは、北米原産のバージニア種といういちごと、南米原産のチリ種といういちごを交配させて、現在のいちごの原種を作り出すことに成功しました。

江戸時代、日本は鎖国をしていましたが、オランダと中国(清)の2国とは、長崎の出島を通して交流がありました。その経路で、いわゆるオランダいちごが日本にもたらされたのです。ただし当初は観賞用であり、広く食用として栽培されるまでには至りませんでした。多雨湿潤という日本の気候は、いちごの栽培に適していなかったのでしょう。

日本でいちごの栽培が行なわれるようになったのは明治中期ですが、現在のように一般化したのは、ずっと遅れて第2次世界大戦以後だとされています。というのも、いちごはクリスマスケーキや大福・チョコレートによって需要が拡大しており、季節を問わずに生産できる温室(ハウス)栽培が必要だったからです。

ところで、みなさんが食べているいちごが、花のどの部分かご存じですか。いちごをよく見ると、小さなつぶがたくさんついているのがわかりますよね。それがいちごの種(果実)です。一般的には子房という部分が成長して果肉になるのですが、いちごは枝の先端部分、それを花托(かたく)と称していますが、その花托が増大したものです。それがバラ科の特徴なので、リンゴも梨もさくらんぼも、みんな花托を食べているのです。

なおこのいちごをめぐって、やっかいな韓国との知的財産問題が発生しています。日本側の言い分は、日本で開発した品種を韓国で交配して、それを韓国産のいちごとして売り出しているというものです。それに対して韓国側は、すべて韓国で開発された新品種だと主張しており、解決の糸口は見えません。韓国との摩擦は、かつての慰安婦や徴用工だけではなく、こんな身近ないちご・みかん・ブドウなどでも生じていたのです。

ちなみに、いちごの記念日は1月15日です。語呂合わせでは1月5日でもよさそうですが、こちらは成人式に対抗して15歳の記念日になっています。そのため15日が「いい・いちご」として選ばれたようです。いちごにはビタミンCやアントシアニンなどの栄養がたっぷり含まれているので、たくさん食べて寒い冬を乗り切りましょう。

 

 

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