10月10日は何の日?

2019/09/20

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

日本にはいろいろな記念日がありますね。その決め方は雑多で、本当に記念日にふさわしい日もあれば、単なる数字の語呂合わせで選ばれているものもたくさんあります。では10月10日はどうでしょうか。

2020年には日本でオリンピックが開催されますが、かつて1964年に東京オリンピックが開催されました。その開会式が10月10日だったことから、それを記念して10月10日が「体育の日」に制定され、1966年から国民の祝日になりました。その後、2000年からハッピー・マンデー制度が導入されたことで、「体育の日」は10月の第2月曜日に変更になりました。10日に定まっていたものが流動的になったわけです。さらに2020年からは「スポーツの日」に改名されることになっています。

その「体育の日」の撤退によって、この日には様々な記念日が制定されたのです。その最大の理由は、10月10日が言語遊戯に適合している数字の並びだからでしょう。比較的古くからあったのは「目の愛護デー」でした。これは1931年に「視力保存デー」として制定されたのですが、第二次世界大戦後に親しみやすい「目の愛護デー」に改称されています。何故「目」なのかというと、これは語呂合わせというより10の字か「一〇」と表記されることから、これを横に並べると眉と目の形になることから選ばれたようです(絵文字的発想)。「耳の日」が3月3日、「鼻の日」が8月7日に制定されているのに対して、やや苦しい感じがしないでもありません。

同じような発想が「貯金箱の日」でした。これはやや進化形で、「一」を貯金箱のコイン投入口に、「〇」をコインに見立てています。ただしそれだけなら「10月」か「10日」のどちらかでも済みますよね。同じ発想が「島の日」です。これは「島」を「とう」と音読みしたことによるのですが、これも片方で済みそうです。まだあります。「トレーナーの日」がそれで、最初の「ト」が「とお」に通じるというだけの薄い関係しかありません。「空を見る日」も同様で、これは「空」を「天」(てん)に置き換えただけのことでした。

それとは別に、10月10日を「釣りの日」に制定したのは、「十」を「とお」と読むことから、「十・十」を「トト」(魚)と読んだことによります。同じくスポーツ振興くじの「totoの日」にしても、「toto」が「十・十」に通じたからでした。もう一つ同じ理由で「トートバックの日」にもなっています。さらに「転倒防止の日」というのは、「転倒」が「テン」・「とお」に通じているからでした。同様に「銭湯の日」になっているのも、「1010」が「せん(千)とお」と訓読できたからです。

ちょっと苦しいものもあります。「冷凍めんの日」は「零」(れい)と「十」(とお)の語呂合わせですが、おわかりのように最初の「1」が機能していません。また「トマトの日」にしても「と」が2つあることはあるのですが、間にある「マ」の説明ができていません。

それに対して「まぐろの日」は由緒があって。万葉歌人である山部赤人が聖武天皇のお供をして明石を訪れた際、「しび釣ると海人船さわき」(938番)という長歌を詠じています。「しび」というのが「鮪」のことです。これがちょうど神亀3年9月15日(新暦726年10月10日)に詠まれていることから、記念日にされているのです。もう1つの「缶詰の日」にしても、明治10年10月10日に北海道で鮭の缶詰製造が始まったことによります。これなら記念日としてまったく問題ありません。

別な読み方、例えば「10」を「じゅう」と読むことで、10月10日は「お好み焼きの日」になります。これは鉄板がジュウジュウ焼ける音です。音だけなら「焼肉の日」でも良さそうですが、既に「焼肉の日」は語呂合わせで8月29日に決められていました。もっとアクロバチックなものもあります。みなさんは「十月十日」という漢字四文字を組み合わせて、漢字一字を作れますか。それでできたのが「萌」という漢字なので、十月十日は「萌えの日」になっています。ついでながらもう1つ漢字が作れますよね。はい、「朝」です。これに「1010」を「一礼一礼」と読んで、合わせて「朝礼の日」とされています。

それとは別に、10月10日を「とつきとおか」と読むとたちまち妊娠期間に変身します。ということで、10月10日は「赤ちゃんの日」ともされています。記念日の決め方なんて、こんなものなのです。

 

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