コインの不思議─「ギザ10」のことなど―

2021/03/05

吉海直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

日本で流通しているコインには、500円・100円・50円・10円・5円・1円の6種類があります。もちろんそれらは同時に発行されたのではありません。それぞれに作られた年が違うし、原料もサイズも異なります。またできた後に改訂されているものもあります。今回はそういったコインの不思議に分け入ってみましょう。

若い方は知らないでしょうが、500円や100円は、ちょっと前までコインではなくお札(紙幣)でした。その500円札には2種類あって、どちらも岩倉具視ですが、昭和26年から46年まで発行されたものは、裏の富士山が右側にあります。それに対して昭和44年から平成6年まで発行された500円札は、富士山が左側になっています。

昭和57年に発行された500円玉は、平成12年まで流通しています。ところが、途中で韓国の500ウォン硬貨(50円程の価値)を使った自動販売機を通す偽造コインが大量に出回ったため、平成12年に偽造されない新500円硬貨に造り替えられました。それが現在の500円玉です。もうすぐ新500円硬貨が発行される予定ですね。

昭和28年から昭和49年まで流通していたのが、板垣退助の100円札です。それ以前、昭和21年から31年までは聖徳太子の100円札でしたが、ほとんどの人は見たこともないですよね。昭和32年に100円硬貨が発行された後、引き続きお札も並行して使われていましたが、インフレが進んだこと、自動販売機が流通したことなどで姿を消していきました。

なお昭和32年から41年までの100円玉は銀貨でしたが、昭和42年に白銅貨に変更になりました。その銀貨にも2種類あって、昭和32年と33年のデザインは鳳凰でした。それが34年に菊に変更されています。今の100円玉は桜ですよね。

50円硬貨はもっとも変遷の激しいものでした。最初に登場したのは、穴なしの50円玉です。昭和30年から33年までという短命なコインでした。というのも、直径が25ミリと大型で、22,6ミリの100円銀貨よりも大きかったのです。そこで間違うことを防ぐために、昭和34年に穴あきに改良されます。それが昭和41年まで使われました。ところが100円玉が銀貨から白銅貨になるということで、それに連動して100円玉より小さな50円玉(21ミリ)に変更されたのです。それが現行の50円玉です。

ついでながら、大きな旧50円硬貨は磁石にくっつきました。それは原料が100パーセントニッケルだったからです。それが白銅に替えられたことで、磁石にくっつかなくなりました。現在、磁石にくっつくコインは、日本では製造されていません。

続いて10円玉です。10円玉は昭和26年に製造され、翌年から流通しています。昭和33年までのものは、俗に「ギザ10」と称されているように、縁に132本のギザが施されています。このギザは原則最高額のコインに施されるものでした。ですから現在は500円硬貨に斜めのギザが施されています。

ところが昭和30年に50円玉、32年に100円玉が発行されたことで、遂にギザのない10円玉が昭和34年から発行されるようになりました。それもあって、ギザのある10円玉が「ギザ10」としてマニアに愛好されているというわけです。もちろん単にギザの有無だけではありません。デザインの変更と相俟って、「ギザ10」の人気が高まったのです。

10円玉の表には平等院鳳凰堂がデザインされていますね。なおコインの表裏は、誤解している人が多いようですが、造幣局では元号のある方が裏と表明しています。ですから鳳凰堂のある方が表なのです。小さくてよく見えませんが、鳳凰堂の上に載っている鳳凰にオスメスがあると聞いたことはありませんか。昔はかなり噂になっていました。

もっともこれは「ギザ10」だけの話です。現在の鳳凰は尾が垂れていますが、大半の「ギザ10」は尾が垂れていないのです。もちろん垂れているのがオスで、垂れていないのがメスです。昭和26年のものはひよこのように見えます。27年のコインにはオスとメスと二種類あります。しかも左右が対象ではないので、メスのコイン・オスのコインだけでなく、オスメス向き合っているように見えるものまであるのです。ただし長く使われてきたことでかなり摩耗しているので、きれいなものでないとわかりにくいかもしれません。

多くの人が「ギザ10」に目を向けている時、ごく一部のマニアは、昭和61年後半の10円玉に密かに目を向けていました。どうしてかというと、その年に鳳凰堂の屋根と階段の一部にデザインの違いが認められるからです。しかも発行枚数が極端に少ないので、「ギザ10」よりも高値で取引されているとのことです。

5円玉にも3種類あります。昭和23年、24年のものは穴がなく、国会議事堂がデザインされていました。もちろんギザもついていました。昭和24年に、穴の開いた5円玉が出ました。これは1円銅貨と区別するためと、穴の分だけ材料費を節約できるからといわれています。昭和33年に廃止され、34年に新5円玉が発行されました。デザインはほぼ同じですが、表の「五円」が楷書体からゴチック体に変更になっています。また裏の日本国の「国」が、旧字体から新字体になっているので、見ればすぐにわかります。

最後は1円玉の変遷です。最初は昭和23年に黄銅貨として発行されましたが、原料費の高騰で鋳潰される恐れが発生したので、昭和28年に製造中止になりました。2年の空白を置いて、昭和30年に50円硬貨と同時に新1円玉が発行されました。これはアルミニウム製なので、表面張力で水に浮くコインと称されています。また最小コインなので、「お前の顔は1円玉」という表現も流行しました。これ以上崩せないという意味です。なお1円玉の直径は2センチで、重量は1グラムなので、うまく使うと寸法や重さを測ることができます。

もっとも最近は電子マネーが急速に広まっているので、いずれ少額コインは使われなくなるかもしれませんね。ちなみに1円玉1枚を作るためのコストは、なんと3円もかかるといわれています。だから偽コインが作られないのです。というより、製造されなくなればかなりの費用が浮くことになります。

 

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