
新たな気づきが生まれる場に。
こども食堂のこれから ー教育コミュニティの可能性ー
「こども食堂」という言葉を、今では多くの方が耳にするようになりました。実際に参加したり、ご自身で運営されている方もいらっしゃるかと思います。日本全国のこども食堂のネットワークづくりをされている「むすびえ」の理事長である湯浅誠さんは、こども食堂を社会のインフラにしたいとおっしゃっていましたが、今やその数は9132箇所となり、全国の公立中学校と義務教育学校の数を合わせた数とほぼ並んでいます(2024年2月時点 むすびえホームページより)。
こども食堂が抱える課題
いつも温和な笑顔を浮かべられている湯浅さんですが、お会いした際に厳しく質問されたことがあります。大阪府高槻市で市内のこども食堂のネットワークづくりに取り組む岡本工介さん(タウンスペースWAKWAK)のお誘いがあり、こども食堂をテーマとする話し合いの場に参加させていただいた時のことです。私は、もともと学校と地域の協働する「教育コミュニティづくり」をテーマに、中学校でのフィールドワークを行なっていたので、こども食堂が学校と地域をつなぐ場になれば良いと思っていました。しかし、湯浅さんは、子どもはもちろんのこと、障がいのある方や高齢者など、地域のさまざまな人が包摂される場として、こども食堂のあり方を構想されていました。その視点が不十分であることを指摘した質問でした。 こども食堂は、子どもの貧困が社会問題となった際に着目されました。こども食堂が、地域のこどものセーフティネットになったことは確かです。一方で、こども食堂は困っている子どもが行くところ、というまなざしも生まれました。すると、本当に困っていても、他の人の目が気になり行きづらい、という状況も生まれました。困っている子どもが、困っていないような顔をしてふらっと立ち寄れる場所であることが大事です。また、多くの人がこども食堂を利用することで、もともとは困っている子どもに寄り添いたいと始めたスタッフの方が、その時間を確保する余裕がない、というケースもあります。では、これからのこども食堂は、どのようなことを考えていくと良いのでしょうか。
「子ども」を通じた地域コミュニティの形成
私のゼミでは、京田辺市の興戸駅から徒歩15分ほどのところにあるコミュニティカフェ悠隣館きらりSという場所をお借りして、月に1度程度、「こどもカフェ」という名前で小さな集まりをさせていただいています。歩いてすぐのところにある草内小学校の子どもが立ち寄ってくれるのですが、時には子どもよりも大人の方が多い時もあります。もしこれが、本当に喫茶店経営だったとしたら、赤字つづきということになりますが、こどもカフェとしては悪くないと考えています。なぜ多くの大人が関わってくれるのか。それは、「子ども」という言葉の強さだと思います。「子どものためなら」ということで多くの人が動いてくれることを再確認させてくれたのが「こども食堂」でした。そうして、「子どものため」と動く中で、実は大人同士もつながっていきます。
こども食堂を中心に広がる支援のネットワーク
私がゼミで「こどもカフェ」を始めると、敬称は割愛させていただきますが、good job café、チームせせらgooスマイルダイニング、もどり場だんだん、ばーばの手、龍馬館など、京田辺市の様々なこども食堂を運営される方達と出会うことができました。また、京田辺市社会福祉センター、フードバンク京田辺、そよかぜ子育てサポート、京田辺市学習支援活動スタサポ「キララ」など、食材支援や子ども支援に関わる方とも出会うことができました。さらには、京田辺市内を超えて京都府社会福祉協議会の方ともつながり、山城地区のフードバンクの中継拠点となっている青谷学園を紹介いただきました。城陽市で電気自動車のあるこども食堂をされている今池こども食堂ゴリゴリさんとは、食材管理システムの共同研究を行なうこととなりました。つい最近では、コミュニティ・バンクに就職した本学現代社会学部現代こども学科の卒業生が訪ねてくれました。このように、「こども食堂」に関わることで、さまざまな人と出会いつながりが生まれました。
こども食堂がもたらす新しい教育コミュニティの可能性
また、コミュニティカフェですので、午前中は地域の高齢の方が集まります。時間帯によっては、「こどもカフェ」にも顔を出してくれることもあり、ある日は「なんじゃもんじゃ」という、カードを記憶するゲームを小学生と高齢者が一緒になって遊ぶ場面も見られました。このように、「こども食堂」は、さまざまな人がつながる場となります。さまざまな人がつながっているか、という視点で、これからの「こども食堂」を見ていければと思います。
最後に、私の研究について言えば、テーマとしている「教育コミュニテイ」は、大阪大学の教授であった池田寛先生が、学校・園への参加を通じて新たにつくられる人のつながりに着目したものでした。これからは、地域の第三の居場所である「こども食堂」も視野に入れて、学校と地域の協働を研究していく必要があると思っています。
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