大学の知と社会が交わり、
新たな気づきが生まれる場に。

食材料費高騰と給食経営管理の現状 ー課題と新技術の活用ー

2024/11/01

給食経営管理実習は、管理栄養士専攻の3年次生が行う実習です。学生たちが考案した献立を、学生自身が100食分調理し、配膳・提供を行っています。学生は、設定した食材料費の上限の範囲内で献立計画を行わなければなりません。仕入れ業者からの食材料費は2017年から平均して1.3倍上昇しており、2年前に実習食材料費の上限額を20円引き上げました。しかしながら、食材料費の高騰は続いており、2023年度の猛暑の影響で主食である米の価格も上昇したため、実習食材料費の上限額を値上げせざるを得ない状況が続いています。

10006-1.jpg

食材料費高騰の原因

食材料費の高騰の原因はいくつかあります。

  1. 原材料費価格の上昇:天候不良や異常気象、国際紛争の影響によるもの。特にウクライナ情勢の影響で小麦や油脂類の価格が大幅に上がっている。
  2. 物流費の上昇:ガソリン価格の高騰により、輸送コストが増加している。これにより食品の価格も上昇している。
  3. 人件費の上昇:労働力不足や最低賃金の引き上げにより、食品価格へ反映される結果となっている。
  4. 食糧自給率の低さ:日本の食糧自給率は低く、多くの食品を輸入に頼っている。輸入価格の上昇や円安の影響で、食品価格が上昇している状況である。

これらの要因が組み合わさって食材料費の高騰が続いているのが現状です。

学校給食における栄養基準の維持と食材料費負担

ここで学校給食について考えてみましょう。学校給食は、学校給食法に則って実施されています。学校給食の目標値とされるエネルギーおよび11種類の栄養素の基準が、学校給食摂取基準として定められており、高学年(10・11歳)では、780kcalのエネルギーおよび栄養素を満たす献立を、定められた食材料費の範囲内で調達しなければなりません。令和3年度の文部科学省の調査では、1食あたりの食材料費は全国平均で256円でしたが、食材料費の高騰から、これまでと同じ食材料費で目標値のエネルギーおよび栄養素量を満たすための食材料を調達できない状況となっています。
食材料費は保護者負担であることが学校給食法で定められていますが、食材料費の高騰は、言うまでも無く家計を圧迫しています。食材料費の値上げをするのかどうか、値上げする場合は、値上げ分をさらに保護者負担にするのか、設置者である自治体が負担するのかなどが、課題となっています。その判断は自治体ごとに異なるが、令和4年度文部科学省の調査では、「学校給食費の保護者負担軽減に向けた取組」を実施・実施を予定している自治体は1,491(83.2%)、実施を予定していない自治体は302(16.2%)でした。

公的資金でまかなう食材料費以外の費用

10006-2.jpg

学校給食は、食材料費だけで成り立っているわけではありません。調理従事者の人件費、調理場や調理機器を含む施設設備費、光熱水費や洗剤等の衛生費など、さまざまな費用がかかります。通常の飲食店の原価率(食材料費の販売価格に占める割合)は30%が目安とされていますが、これを学校給食に当てはめると、食材料費256円の倍以上の金額が必要となります。学校給食においては、これら食材料費以外の費用を公的資金、つまり税金でまかなわれています。
給食経営管理実習で使用している洗剤や衛生手袋などの消耗品費は、2017年から1.3倍に上昇。水道料金も過去10年で上昇しています。安全な水が提供されるためには、老朽化や耐震化のための水道管の交換や水道施設の維持に費用がかかります。公共料金の維持費は、人口減少が負担増に影響しており、ガス料金については、ガスの主な原料である液化天然ガスの価格が高騰しています。これには国際紛争や世界的な需要増加、円安の影響があります。電気料金についても、原料となる原油と天然ガスの両方の価格上昇のほか、複数の要因が合わさって価格上昇の理由となっています。

給食業界の課題と新技術の活用による解決策

給食を提供しているのは学校だけではありません。病院、高齢者施設、事業所、保育所、自衛隊など多岐にわたります。これまで述べたように、給食提供に係る費用は上昇の一途をたどっており、給食を担う人材不足も加速しています。そのような状況の打開策として、給食業務にAIやロボットを活用する取り組みもあります。献立作成の自動化、調理従事者のシフト作成、メニューの出数予測や発注業務の自動化、セントラルキッチンでのトレイメイクの自動化、食器洗浄のロボットなどです。
給食業界の課題を新しい技術やシステムを活用することで、少しでも解決につながる可能性があります。それぞれの現場で、どのように対応していくかが喫緊の課題です。

Profile

取材に関するお問い合わせ

取材にあたりましては、事前に申請・承認が必要となります。
取材のお申込みをいただく際には、以下の注意事項をご確認いただき、「取材申込書」をご提出ください。