『赤毛のアン』に会いたい―モンゴメリ生誕150周年を記念して― 表象文化学部連続公開講座④

2024/12/20

自然の美しいプリンス・エドワード島を舞台に、孤児院育ちのアンが、持ち前の想像力とエネルギーで周囲の人々と共に成長していく『赤毛のアン』シリーズ。アンの愛と挑戦の物語は、出版からおよそ120年、いまだ私たちを魅了し続けています。英語英文学科では、作者であるルーシー・モード・モンゴメリ生誕150周年となる今年、多角的な視点から理解を深め、魅力を再発見することを目的として、連続公開講座を企画しました。その最終回、第4回目の開催報告です。

 

テーマ『赤毛のアン』―マリラの隠された物語―
日時:2024年12月6日(金)16:50~18:00
場所:今出川キャンパス楽真館R401教室

 

第4回講座では、東京大学名誉教授、順天堂大学特任教授である山本史郎氏を講師に迎え、原作と村岡花子訳の『赤毛のアン』がそれぞれどのような物語であるか、また村岡訳が「翻訳論」の視点からどのように評価できるかについて、優しい語り口とユーモアを交えて語られました。

講演は、原作が短編小説の集まりとしての面と、長編小説としての面の2つの顔を持つという考察から始まりました。山本教授は、物語のテーマを「主人公の成長」と位置づけ、孤児のアンの成長物語であると同時に、養母マリラの成長物語でもあると強調しました。アンの成長については、子どもらしい失敗を繰り返しながらも、大人へと成長する姿が丁寧に描かれています。一方、マリラの成長は、当初は感情表現が苦手で厳格なクリスチャンであった彼女が、アンとの生活を通して心を開き、愛情を率直に表現するようになる点にあります。また、信仰心と人間的な愛情との葛藤を乗り越えるプロセスも詳細に分析されました。

特に、マシューが亡くなった夜にマリラが心の内を「告白」する場面は、彼女の精神的成長のクライマックスとして扱われました。この場面は、彼女の感情の変化と精神的成長の到達点であり、19世紀イギリス小説に典型的な構造だと指摘されました。

対照的に、村岡訳の『赤毛のアン』では、マリラの心理描写が省略され、物語の構造が崩れていると指摘されました。これについて、翻訳論の立場からは、村岡訳はアンの視点の比重が大きくなることで、児童文学としての性格が強められたことや、また、日本の文学的伝統との関連についても解説され、講演が締めくくられました。

本講座には、学生、教職員、そして一般の方々約50名が参加し、作品への理解を深め、心温まる時間を共有しました。山本教授の語り口は終始親しみやすく、学術的な考察を交えながらも聴衆を魅了し、深い感動を呼び起こす内容でした。

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