『赤毛のアン』に会いたい―モンゴメリ生誕150周年を記念して―表象文化学部連続公開講座③
自然の美しいプリンス・エドワード島を舞台に、孤児院育ちのアンが、持ち前の想像力とエネルギーで周囲の人々と共に成長していく『赤毛のアン』シリーズ。アンの愛と挑戦の物語は、出版からおよそ120年、いまだ私たちを魅了し続けています。英語英文学科では、作者であるルーシー・モード・モンゴメリ生誕150周年となる今年、多角的な視点から理解を深め、魅力を再発見することを目的として、連続公開講座を企画しました。その第3回目の開催報告です。
テーマ「赤毛のアン」のいた風景-PEI、カナダ、そして世界へ―
日時:2024年11月15日(金)16:50~18:00
場所:今出川キャンパス楽真館R401教室
第3回講座では、本学科鈴木健司教授が、北米政治学の専門的視点から、『赤毛のアン』シリーズの中でアンが生きる世界と、そのカナダ文化としての意味について掘り下げました。教授はまず、2009年に訪れたプリンス・エドワード島の写真を用いて、物語の中で重要なシーンを彩る赤土やリンゴの並木道について触れながら、作中に描かれる風景と実際の島の自然を紹介しました。
鈴木教授によると、『赤毛のアン』は、読者がカナダを意識せずに楽しんでいるケースが多いのではないかと指摘しながらも、同作品が世界的な愛読書として受け入れられ、プリンス・エドワード島の自然やカナダ文化を象徴する存在となっていることが、冒頭で強調されました。また、シリーズを通じて、アンは大人の女性として成長しますが、彼女の物語が地理的な広がりを見せていくのも特徴だと述べられました。アンが描かれた時代は、カナダが英国の自治領として徐々に独立性を強めていく時期で、アンがノヴァスコシア出身という設定から読み取れること、カナダにおけるイギリスとフランスの関係、イギリス人支配層とフランス系住民の地位格差が『赤毛のアン』シリーズの中でも垣間見え、社会構造の一端が反映されているといったことなど、アンが生きた時代のカナダがどのようなところであり、それが物語にはどのように表れているかを興味深く解説され、聴衆を魅了しました。
また、カナダの反米感情やナショナリズムにも触れられました。アメリカ独立戦争後、イギリスを祖国として革命に反対した人々がカナダに移住し、イギリスとの結びつきを重視する思想が根付いた歴史を紹介し、これが物語の背景理解を深める一助となることを示しました。アン自身がカナダの自然や歴史的出来事を誇りに思う姿は、『虹の谷のアン』や『アンの娘リラ』で特に顕著であり、キャラクターの言動にカナダのアイデンティティが表れている点も解説されました。政治も物語の重要な要素であることにも触れ、登場人物のマシューが保守党支持者として描かれていることから、当時のカナダの政治情勢やイギリス王室への忠誠心が反映されていると指摘しました。
このように『赤毛のアン』シリーズは、単なる文学作品を超え、カナダの歴史や社会、文化を反映し、カナダ人のアイデンティティを深く探求できる作品であると理解されました。
最後に、『赤毛のアン』が世界に広がった推進力になったのはミュージカルで、万国博覧会が売り込みのきっかけになったというお話もありました。カナダは「赤毛のアン」をネイションブランディングに効果的に活用し、観光振興や国際的な文化認知に成功していることが紹介されました。
本講座には、学生、教職員、そして一般の方々約30名が参加し、作品への理解を深め、心温まる時間を共有しました。
次回(第4回・最終回)の講座は12月6日(金)16:50~18:00に開催の予定です。