9月30日は「くるみの日」

2023/09/20

吉海 直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

記念日というのは制定しようとさえ思えば作れます。試みに木の実関係を調べてみると、1月23日が「アーモンドの日」で、7月22日が「ナッツの日」で、9月30日が「くるみの日」となっていました。

何故1月23日が「アーモンドの日」なのかというと、アーモンドは成人女性が一日に摂取する量の目安が23粒(多すぎる!)なので、そこから1月23日に決められたとのことです。次の「ナッツの日」はというと、すぐに語呂合わせだということがわかります。「ナ」が「7」で、「ツ」が「2」ですね。それなら7月2日でもよさそうですが、「ッツ」と「ツ」が二つあることから22日になったようです。

では「くるみの日」はどうでしょうか。「く」が「9」で「み」が「3」だということはすぐにわかります。だったら9月3日でもいいわけです。それが30日になっているのは、最後の「0」が丸いくるみの形を表わしているからだそうです。そのために9月30日に決まりました。ちょっと苦しいですね。

この記念日は、長野県東御市(とうみし)のくるみ愛好家が個人的に制定したものだそうです。もちろん長野県はくるみの生産量第一位として知られています(二位は青森県)。特に東御市は昔から「信濃くるみ」の生産地として有名でした。ですからここで「くるみの日」が制定されるのも当然かもしれません。

ここまで来たところで、みなさんは「くるみ」がいつから日本にあったかご存じですか。チャイコフスキー作曲の「くるみ割り人形」があるので、近代になって西洋から日本にもたらされたような雰囲気もありますね。

ところが考古学の世界では、なんとくるみは縄文時代から日本で食べられていたことが確認されています。くるみは外来種ではなかったのです。それは「おにぐるみ」という品種だそうです。『古今集』の物名には「梨・棗・胡桃」を詠みこんだ、

あぢきなし嘆きなつめそ憂きことにあひくる身をば捨てぬものから(455番)

という歌があります。みごとに三つが詠み込まれていますね。また『枕草子』148段「見るにことなる事なきものの、文字に書きてことごとしきもの」(漢字で書いたら大げさなもの)の中にも、

覆盆子(いちご)鴨跖草(つゆくさ)水茨(みづふぶき)。蜘蛛。胡桃。文章博士。得業の生。皇太后宮権大夫。楊桃(やまもも)。いたどりはまいて。

云々と出ていましたが、用例はあまり多くないようです(胡桃色もあります)。

このくるみにはポリフェノールやメラトニンといった抗酸化物質が豊富に含まれています。しかもビタミンEをはじめとしたビタミン類や亜鉛なども豊富に含まれている栄養価の高い食べ物だったのです。そのため日本料理にもさまざまに使用されています。

ところでみなさんが食べているくるみの正体はおわかりですか。食べているのは実ですか、果実ですか、それとも種ですか。あの固い殻は種ですね。その種を割って、中にある仁と称されている部分を食べているわけです。

くるみは5月から6月にかけて開花し、夏に実を付けます。その実の中に硬い種ができるわけです。くるみの収穫時期は9月から10月にかけてですから、「くるみの日」はまさに種の収穫時期と重なっていたのです。

ついでですが、くるみを漢字で書けますか。一般には「胡桃」と書いていますね。「胡」というのは、古代中国の西域の胡国のことです(きゅうりも胡瓜ですね)。「桃」はおわかりですね。くるみの種が桃の種とよく似ていたことから、「胡桃」と名付けられたわけです。また「呉」の国から伝来したことから、「呉実(くれみ)」が訛ってくるみになったという説もあります。どうやら日本に昔からあった国産の胡桃とは別に、江戸時代に輸入していたようです。

※所属・役職は掲載時のものです。