在宅療養する人々とご家族の訪問看護から学んだこと

2018/11/01

小松光代(看護学部 看護学科 教授)

少産多死社会において、地域包括ケアの確立が求められています。地域包括ケアシステムとは、様々な原因により要介護状態、重度の認知機能障害となっても最期まで住み慣れた地域でその人らしい暮らしを実現する仕組みで、この一端を担うのが訪問看護師です。病院勤務の看護師が約150万人に対し、訪問看護に従事する看護師は4万7千人弱と少数です(厚生労働省H29.7.13.)。

在宅看護学実習では、学生が訪問看護師に同行し利用者の自宅で看護援助を学ばせていただきます。3年次生全員が、4ケ月間で延900件に伺いました。教員は、学生に訪問看護中の見学・実施内容、気づきを確認し、指導者とともに理解が深まるように振り返りを行います。

この実習の特徴は、限られた訪問時間内で感性を研ぎ澄まし、五感と既習の知識を総動員して利用者のありのままの姿や望まれる暮らしを肌で感じ、QOLを考慮して看護計画を立案することです。学生の実習にご協力くださり貴重な場を与えてくださった利用者・ご家族、指導看護師の皆様に心よりお礼申し上げます。

以下に学びの一例を紹介します。

糖尿病と認知症がある高齢独居の方の食事指導についてです。学生は、既習の知識と看護の原則に則り、血糖コントロールのために摂取カロリーの制限や運動を主眼に生活指導を計画しました。しかし、利用者の疾患症状、内服状況、病識と認知機能障害等ならびに長年の生活習慣や大切にしてきた想い、生活全体を捉えて総合的にアセスメントして個別性のある指導ができませんでした。学生は、利用者の暮らしに寄り添うことや利用者が望む暮らし、大事にしたい想いを汲み取ることの難しさを痛感しました。さらに、在宅看護の特徴は、リスクを予測して対策をとり、大きな問題や緊急性がなければ見守りを優先し、信頼関係の延長線上に看護師の提案を取り入れていただけるということを学びました。

また、別の糖尿病で飲酒習慣のある利用者のお宅で、訪問看護師が酒の空き瓶を発見した際、注意するのではなく、正確な血糖測定のために検査前の飲酒はしないようにと約束をとりつけ、「お酒を飲んでいることを教えてくれてありがとう」と情報の入り口を開けておく対応をされたことに感銘を受けていました。

訪問看護師が利用者に直接かかわるのは、24時間の生活のほんの一部です。利用者・家族の思い、ライフスタイルと健康管理・生活維持を天秤にかけ、「思いや暮らしに寄り添い」、状態を見極めながら看護が展開されていることを実感できました。

最期の時が迫り苦痛が大きい利用者を訪問した際、学生が足浴の一部をお手伝できる大変貴重な機会をいただきました。足を湯につけて利用者が一瞬おだやかな表情をされた時、学生は看護援助の醍醐味を感じたようです。また、排泄時に気力でベッドサイドのポータブルトイレに座り、用を足そうとされた姿を垣間見て、「人の世話にはできるだけなりたくない」という強い信念、気迫を感じ、利用者の人生に思いを馳せ、「生」を支える責任を身にしみて感じ、尊厳について深く考えることができました。訪問看護師は、自宅での看取りを決心されたご家族を支持し不安を受け止め、一貫して肯定的な声かけを丁寧にされていました。看護師の発した言葉かけにご家族が安堵されたのを目の当たりにし、看護の力を確信することができました。

このような貴重な経験は、利用者、ご家族のご理解と指導者の配慮による実習場面のほんの一握りです。訪問後の学生は、看護師の考えるQOLではなく、利用者本人・ご家族の想いに寄り添い、それを支える在宅看護の魅力について生き生きと語るようになります。学生を通して、教員も在宅看護の魅力を再確認し、臨床感覚を鍛錬し、学び直しをさせていただいています。

本学では、「いのちとむき合う揺るぎない信念と良心」を大切に教育していますが、在宅看護学実習を通して、学生は、「いのちと向き合い、思いや暮らしに寄り添う揺るぎない信念と良心」を備えた姿に進(深)化していると感じます。

今年度もまもなく在宅看護学実習が始まります。学生の同行訪問を承諾してくださる利用者・ご家族の皆様、将来を担う学生たちを温かく見守ってください。

※所属・役職は掲載時のものです。