出産・育児環境の変化と女性支援者としての助産師の育成

2018/02/23

和泉美枝(看護学部 看護学科 准教授)

“助産師”という仕事をご存知ですか?昨年テレビ放映されました、「コウノドリ」では吉田羊さんが助産師の「小松留美子」役として、病院で働いている姿が描かれていました。国際助産師連盟では、助産師は「助産師自身の責任において分娩を取り扱い(お産を介助し)、新生児や乳児のケアを提供するだけでなく、女性とその家族、さらに地域での健康に関する相談、教育に重要な役割を担う者」と定義されています。このように、助産師は病院などでのお産の介助に加えて、妊婦や産後の母親、新生児、乳幼児のケア、さらに学校や地域での性教育、家族計画指導、更年期障害に関する相談事業など、女性の生涯における性と生殖にかかわる健康相談や教育活動の担い手として期待されています。そして、活躍の場は病院、診療所、助産所、地域、行政、家庭など多岐に渡っています。

本学では、今年の4月から大学院での助産師養成をスタートします。その養成に携わる教員として、女性とその家族に寄り添い、分娩施設のみでなく、地域でも女性とその家族を支援できる、広い視野をもった助産師を育成していきたいと思っています。

現在、わが国の女性とその家族を取り巻く環境、特に妊娠や出産、育児における環境について見ていきます。わが国の出産の状況をみると、2016年の出生数は前年比2万8,699人減の97万6,978人(前年100万5,677人)となり、初めて100万人を切りました。これは、1971~1974年の第2次ベビーブーム期(約200万人)の半数以下です。一方、合計特殊出生率(15~49歳までの既婚・未婚を含めた全ての女性の年齢別の出生率を合計したもので、1人の女性が一生の間に生む子ども数)では、第1次ベビーブーム期(1947年)は4.54であり、女性は一生の間に4~5人の子供を出産していました。しかし、それ以降1973年は2.14、2016年では1.44と、出産する子どもの数は1~2人となり、少子化が急速に進んでいます。

さらに、わが国では核家族化の進行と、それに伴う地域とのつながりの希薄化も見られています。兄弟が多く、地域とのつながりも強かった時代は、子どもは親の育児をそばで見て、親の手伝いをしながら成長し、家族間や近隣住民間で子育ての知識や技術が継承されていました。しかし、現代ではそのような機会は減り、育児の経験や子どもに接する機会さえもなく出産や子育てを迎えます。子育てに対する負担感も大きく、子育ての孤立化や虐待などの社会問題も生じています。このように少子化や核家族化の急速な進行は、妊娠や出産、子育てのしづらい環境を生み出しています。

このような状況のなか、2016年に発表されたニッポン一億総活躍プランでは、「希望出生率1.8」という目標を掲げ、女性の活躍を期待するとともに、子育てをしながら仕事を続け、安心して子どもを産み育てることのできる社会の創設、「夢をつむぐ子育て支援」を目指しています。現在、妊娠・出産後も就業を継続する女性は増え、保育所、産前産後休業制度、育児休業制度、短時間勤務制度などの子育て支援は徐々に進んでいます。しかし、マスコミでもよく取り上げられている待機児童問題、男性の育児休業制度、育児時間制度、短時間勤務制度の利用者の少なさなど、まだまだ多くの課題があります。このような状況で仕事と育児との両立を余儀なくされ、女性とその家族は大きな身体的・精神的・社会的負担を強いられます。時代とともに妊娠や出産、育児を取り巻く環境は大きく変化し、また妊娠や出産、育児はその時代の社会情勢に大きな影響を受けます。社会の変化に伴って家族のかたちや抱える問題も多様化しており、その時代に即した支援が求められます。

女性とその家族にとって、妊娠や出産、育児とはかけがえのないものです。彼らがこの時代、この社会(地域)の中で安心・安全な妊娠、出産、育児をするために必要な支援は何か?を常に考え、女性とその家族に寄り添い、多様化したニーズに即した支援ができる助産師の育成に尽力していきたいと思っています。

 

※所属・役職は掲載時のものです。