渡航の際の健康管理~マラリアと下痢の記憶

2018/01/16

橋本秀実(看護学部 看護学科 准教授)

あなたは、異国の地で病気やけがに見舞われたことがありますか?旅行の際は海外旅行傷害保険に入っていますか?また、旅行先で健康上気を付けるべきことを調べてから出かけますか? 2016年の日本人海外渡航者は1712万人に及ぶとのことです(法務省)。海外旅行がさほど敷居の高いものではなくなった今だからこそ、渡航前に健康管理についての準備も怠らないようにしてほしいと思います。

2014年日本でもデング熱が発生したと大きく報道されたことはまだ記憶に新しいと思います。この騒ぎでデング熱というあまり日本で知られていなかった病気が蚊によって媒介されることを知った方も多いと思いますが、日本人旅行者に人気のアジア地域がデング熱の流行地域だということを認識して、旅行中の予防策を講じているでしょうか?同じように蚊によって媒介される病気であるマラリアは、年間2億1千万の感染者と43万人の死亡者のいる感染症です。(WHO,2015)。マラリアといえばアフリカというイメージが強いかもしれませんが、アジアや南太平洋地域でも発生しています。最近では虫よけスプレーが普及し、かなりの効果が期待できますが、私が西アフリカのセネガルにいた2000年ごろはまだ、虫刺され対策といえば蚊取り線香が主流でした。足元には常に蚊取り線香を焚き、寝るときは蚊帳の中で寝ていたのですが、蚊に好かれる体質の私はマラリアにかかってしまい、嘘みたいな話ですが「ここで死ぬわけにはいかない、何とか生きて日本に帰らなければ」と思うほどの熱にうなされました。私が子どものころに比べると、日本で蚊に刺される機会は格段に少なくなっているように思いますが、熱帯・亜熱帯地域に出かける際には虫さされ予防対策を忘れてないようにしたいものです。

下痢や嘔吐などを伴う消化器系の感染症にも注意が必要です。もちろん、海外で生水を飲まないなどということは、ほとんどの人が気をつけられていると思います。でも、地域によっては、歯磨きやうがいの際の水にも気をつける必要があることをご存知でしょうか。熱帯のフルーツが豊富な地域では道端や市場でカットしたフルーツを売っていますが、衛生面で心配がありますし、レストランでサラダなどの調理済みの生野菜から感染することもないとはいえません。何より、暑い地域で欠かせない氷が安全でない水からつくられている危険性を考える必要もあります。かくいう私は、南アフリカ滞在中、休暇でタンザニアのザンジバル島を訪れた際、ひどい下痢に見舞われました。アフリカに住んでいても下痢などかかったことがないような人間が、です。夜中激しい腹痛でトイレにこもり、ようやく落ち着いてトイレからでたものの、めまいを起こし立ち上がれなくなってベッドまでたどり着けませんでした。原因は前夜屋台で食べたシーフードだったと思います。怪しいかなとは思いながら火が通っているから大丈夫だろうとつい手を伸ばしてしまいました。一緒にいた友人は全く症状が出なかったので、私の食べたものだけが汚染されていたのか、火が通っていなかったのか。せっかくのビーチもイルカを見るツアーも台無しでホテルに閉じこもる休暇となりました。

マラリアでうなされた経験も下痢で休暇を台無しにしたことも、今だから笑い話ですが、一つ間違えば大ごとになる危険さえありました。ツアー旅行をする場合はあらかじめ注意事項を知らせてくれることが多いでしょう。また、ポピュラーな観光地の場合はよほどディープな場所に近づかなければそれほど大きな危険はないと思われます。けれども、海外旅行の際は、パスポートやお金や荷物の準備に加えて、健康管理面での準備も忘れないでいてほしいと思います。あまり日本人観光客が多くないような場所にツアーではなく個人で旅行する場合はなおさらです。ガイドブックにも注意事項は書かれているとは思いますが、外務省の海外安全ホームページに国別の医療情報が掲載されていますので、渡航前にはぜひ見ておきましょう。春休みを控え、学生の皆さんには海外旅行を計画される方もいらっしゃると思います。十分気を付けて、楽しい思い出を作ってきてください。家族や友人にはどんな高価なお土産の品よりあなたの笑顔と思い出話が一番のお土産です。

 

※所属・役職は掲載時のものです。