夏場の脱水が脳卒中を引き起こす

2017/07/07

天野 功士(看護学部 看護学科 実習助手)

夏になると増える病気として皆さんはどのようなものを思い浮かべますか。

最近では、テレビなどで毎日のように食中毒や熱中症のニュースが取り上げられています。他にも意外と知られていない病気として脳卒中があります。脳卒中と聞くと、寒い時期に起こりやすいと思われがちです。しかし、国立循環器病センターの調査によって冬よりも夏に多く発症することが明らかになりました。その主な原因は脱水と考えられています。夏は大量に汗をかき、体内の水分と電解質が奪われます。水分が失われると血液が濃縮され、流れが悪くなり血管が詰まりやすくなります。また、電解質のバランスが崩れると不整脈を起こし、血流が乱れ血栓(血液のかたまり)ができやくすなります。そのため、脱水の予防には、水だけでなく電解質を含むスポーツドリンクなどを摂取することが効果的であるといわれています。平成26年の厚生労働省患者調査によると、脳卒中は、がん、心臓病、肺炎に次いで死因の第4位を占め、年間約25万人が発症しています。そこで今回は、夏に起こりやすい脳卒中についてお話しします。

脳卒中とは、脳の血管が破れる(脳出血)あるいは詰まる(脳梗塞)ことによって、脳が障害される病気です。脳卒中の「卒」は「突然に、急に」、「中」は「あたる、突き通す」という意味があります。字の通り、脳卒中はある日突然起こるという特徴があり、早期に対処できなかった場合には、手足に力が入らなくなる、呂律が回らなくなるなどの症状が残る確率が高まります。脳卒中を発症した患者さんが困るのは、こうした後遺症が原因で日常生活に支障をきたすことです。例えば、麻痺によって手を思うように動かすことができなくなった場合、物をつかむことが困難となります。特に利き手の麻痺では、文字を書くことができない、お箸を持つことができない状態になります。つまり、これまで当たり前に行っていた日常生活が行えなくなり、患者さんは生活の変更を余儀なくされます。

脳卒中による後遺症を最小限にするためには、早期発見・早期治療が非常に大切になります。なぜなら脳卒中を発症してから4.5時間以内であれば、血栓を溶かす薬を用いた血栓溶解療法を受けることができるからです。アメリカの脳卒中研究グループによる臨床試験(National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group,1995)では、この治療を受けることで、約4割の患者さんが社会復帰できる程度まで回復したと報告しています。また、発症後8時間以内であればカテーテルを使用して血管の中の血栓を取り除く治療を受けることができます。血栓溶解療法、カテーテル治療のいずれの治療にしても、発症後間もない時期に行うほど高い効果が得られ、後遺症が現れにくいといわれています。

では、早期発見するためにはどうすればよいのでしょうか。まずは、脳卒中で起こりやすい症状を知っておかなければなりません。米国脳卒中協会(ASA)は「ACT-FAST」という標語で、脳卒中を早期発見するためのチェック方法を啓発しています。FはFaceで「顔の片側が下がっていないか?笑顔が作れるか?」、AはArmで「片腕に脱力や麻痺がないか?両腕が上げられるか?」、SはSpeechで「呂律は回っているか?簡単な文章を正しく繰り返すことができるか?」をチェックします。 TはTimeで「上記のいずれかの症状があれば、消失した後でも救急車を呼び速やかに病院に受診する」ことを示しており、それらを組み合わせてFASTと呼んでいます。

夏場に起こりやすい脳卒中を予防するには水分と電解質をこまめに摂取し、脱水を予防することが大切です。そして早期発見には、家族、友人、同僚など多くの人が脳卒中の症状を理解しておき、発見したら一刻も早く病院を受診させることが重要です。早期発見・早期治療が後遺症を減らすことに繋がります。何か変だな、おかしいなと思ったら、様子をみるのではなく、脳卒中を疑い、すぐに救急車を呼ぶようにしましょう。

 

文献

National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group (1995):Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke,N Engl J Med,333(24),1581-1587.

 

※所属・役職は掲載時のものです。