女性の妊娠する力と年齢による変化 ~女性がライフプランを考えるときに知っておきたいこと~
植松 紗代(看護学部 看護学科 専任講師)
近年,女性の社会進出が進み,女性が活躍する社会になってきています。またそれに伴うように晩婚化が進み,出産年齢も高くなりました。2015年の厚生労働省の調査では,初めて出産する年齢は平均30.7歳となっています。これは40年前(1975年)の25.7歳と比べると5歳も高くなっており,それ以降第1子出産年齢は上昇を続けています。また出生率は低下し,1989年の合計特殊出生率は1.57を示し,1.57ショックとして少子化が社会的に注目されるようになりました。その後2005年の1.26を最低値として,2015年の合計特殊出生率は1.46と少し上昇しています。
このような社会的背景から,「妊孕力(にんようりょく)」ということが言われるようになりました。みなさんは,「妊孕力」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。妊孕力とは,妊娠する力のことです。なぜ言われるようになったかというと,この妊孕力は年齢とともに低下するためです。年齢とともに低下する理由には,卵子の成り立ちが関係しています。女性は生まれたとき,すでに卵巣の中に卵子の元(卵母細胞)を持って生まれてきます。この卵子の元となる卵母細胞は、妊娠中のおなかの中にいる胎児の時につくられます。これは妊娠5ヶ月頃が最も多く、約700万個にのぼります。妊娠5ヶ月の赤ちゃんの体重は300グラム弱,身長は25センチくらいと,まだまだとても小さいときです。しかしそれ以降,急速に卵母細胞の数は減少していき、生まれた時には約200万個になっています。生まれた後もこの200万個は減り続け、排卵が起こり始める思春期ころには30万個にまで減少します。さらにそのうち女性が一生の中で排卵する卵子は,400~500個の1パーセント以下です。また卵子の元は、出生後新たに作られることはないため、生まれた時の約200万個が排卵に用いられるすべてです。そのため肉体と同様に年齢を重ねるとともに、卵子も年を経て老化していきます。このように年齢に伴う卵子の数の減少と卵子の質の低下から,年齢とともに妊孕力が低くなっていきます。例えば22歳時の妊孕力を1.0とします。すると30歳では妊孕力は0.6を切り、40歳では0.3前後にまで低下していきます。さらに年齢に伴う妊娠へのリスクは,妊娠がしにくくなるだけではありません。年齢が高くなるほど,妊娠した時に母体が高血圧や糖尿病などのトラブルを起こしやすく,また赤ちゃんの染色体異常の確立が高くなることも心配されます。
これらのことからわかるように,妊娠,出産に関しては,いつでもいつまでも,望めるというわけではありません。また年齢が高くなってからの妊娠,出産は様々な危険性を伴います。このことを知ったうえで自分のライフプランを考えることは大切です。将来の自分像について,一度ゆっくり考えてみてください。なかにはこどもを望んでもかなわないこともあるかもしれません。しかし望める選択肢があるのであれば,妊娠,出産に適した時期とタイミングがあるということを知っておくと,ライフプランを描くとき少しは役立ちます。女性がその時々で納得する道が選べるように,自分のからだについて知っておくことが大切です。
※所属・役職は掲載時のものです。