春、亡き父を想ふ

2017/03/08

木村 静(看護学部 准教授)

2017年3月、冬の寒さも少し和らぎ、桜のつぼみも少しふくらんでみえる頃となりました。
さて、皆さんは、この3月をどのような気持ちで迎えておられるでしょうか。
卒業式、別れ、そして新たな門出。
3月は節目の月でもあり、皆さん、様々な思いでおられるのではないでしょうか。 

私は、3月になると、必ず父のことを思い出します。
7年前の春。私の父は亡くなりました。がんでした。
父は、看護師である私を頼り、近所で暮らす私の家に来ては、「近頃どうも調子が悪い。どうしようもなくしんどい。」と訴えていたのですが、私はそのサインを気にも留めず、「少し横になって休んでいたら。」といつも聞き流していたのでした。
そうこうしているうちに症状は悪化し、病院に駆け込んだときにはすでに遅く、医師より余命2か月、もう夏は越えられない、と告げられました。
あまりに残酷な告知でした。
それから、父は、「しんどい」と声を出すことも出来ないほど、あっという間に弱っていきました。
ある日、私は父に「何かしたいことがあったらどんなことでもいいから言ってほしい。」と言いました。
父は、蚊の鳴くような声で、でもしっかりと私の目を見つめて、「もう家に帰りたい。家の庭がみたい。」と言いました。
私たち家族は話し合い、医師に相談し、父を自宅に連れ帰る決意をしました。

父は、最後の力を振り絞り、自宅に帰りました。
病院から自宅まで30分ほどの距離を、これほど長く感じたことはありませんでした。
父は家に着くと、じっと庭を見ていました。
ベッドから庭を見て、泣いていました。
10日後、父は息を引き取りました。
とても陽気な春の日でした。
その後、残された私たち家族は、介護や死について、以前より話す機会が多くなりました。
私は、介護や死について考えることの大切さや家族で過ごす時間の貴重さを、改めて父に教わったと思っています。

皆さんも、この穏やかな春の日に、家族との何気ない普段の暮らしの有難さをかみしめながら、生きている間に自分がしておきたいことは何か、最期はどこでどのように過ごしたいのかを家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

最後に、日本の統計や調査結果について一部ご紹介したいと思います。

[死亡の場所別にみた構成割合の上位]
1:病院などの医療機関(77.3%)、2:自宅(12.8%)、3:老人ホーム(5.8%)
[最期を迎えたい場所の上位]
1:自宅(54.6%)、2:病院など医療施設(27.7%)、3:わからない(6.9%)
~厚生労働省「平成26年度人口動態統計」、及び内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(平成24年)より~

 

※所属・役職は掲載時のものです。