患者さんの思いを「わかる」という体験 ~セルフヘルプグループでの患者さんの言葉から~

2017/02/20

大江 真人(看護学部 助教)

皆さんは、セルフヘルプグループをご存知でしょうか。

セルフヘルプグループとは、がんなどの慢性疾患・精神疾患などの病気の経過が長く、医療のみでは解決できない問題を抱えた方々のグループです。自助グループ、患者会等と呼ばれることもあり、当事者のみで運営していたり、行政や医療機関等がサポートするなど、グループの運営形態は様々です。セルフヘルプグループにおいては、病気の体験談を話すことが自分の生き方を見つめる機会となること、疾患に関する情報を学ぶことで症状の安定につながる等の効果が様々な疾患に共通してあるとされています。

私は看護師となってからの約10年間、うつ病を抱える方々の自助グループに継続してかかわらせていただいています。そのグループでは、うつ病の影響による日常生活上の悩みや薬剤に関する問題、家族や医療者との対人関係の問題などについてのテーマをとりあげて、ディスカッションを行っています。普段、看護師として接する機会が多いのは、入院中や外来に通院されている患者さんです。そのため、私と患者さんのコミュニケーションの話題の多くが治療や症状等の内容でした。そのような状況の中で、セルフヘルプグループに参加させていただき、患者さんがご病気を抱えられながら生活を送るうえでの話題についての語りを聞けることは大変貴重な体験でした。

セルフヘルプグループに参加されているうつ病患者さんのお話を聞かせていただくなかで、とても印象に残った言葉があります。それは、20歳代の女性の言葉でした。

 『お医者さんや看護師さんが、私の言葉や様子から、私の症状や困っていることを理解しようとしてくれていることはしっかり伝わっています。それは本当にありがたいのですが、実際に病気を体験していない方には、自分の苦悩を理解してもらうことは難しいと思っています。うつ病患者さんが集まっているこのセルフヘルプグループでは、自分の思いを理解してもらいたい、相手が理解しようとしてくれているという病院でのやり取りでの感覚ではないところで話をしているように思います。それは、「理解」ではなく、「わかる」という感覚です。漢字で書くと「分かる」、英語で言うと「share」でしょうか。そうできることによって、病気のつらさを分け合って軽くなったような気持ちになるのです。』

この頃、看護師として病院に勤務し、患者さんの気持ちをわかっているつもりでいた私にとっては、自分たちの無力さを思い知らされたような言葉でした。それと同時に、当事者間のコミュニケーションの大切さを知る機会ともなりました。私の行った研究では、うつ病患者さんはセルフヘルプグループにおいて、同じ疾患や悩みを抱えた仲間と出会い、苦痛を分かち合いながら、相互の回復に役に立てることの充実感を得ることが、回復を支える要因となることが明らかになりました。

このエピソードから学んだことは、医療者は、患者さんの思いを知ろうとしながらかかわり、理解したようにかかわっているけれども、それらは本当に患者さんの思いなのかを絶えず問い続ける必要があるのではないかということでした。私たちは、学習や経験を重ねながら、日々患者さんとかかわっています。それでも、患者さんの思いを理解することは難しく、看護師のかかわりによって当事者間のコミュニケーションに勝る効果を得ることは簡単ではないと思います。 

同時に、そのように患者さんの思いを理解することの大切さと難しさを知り、患者さんと向き合い続けることが大切なのではないかと思います。そうすることで、患者さんの苦痛や苦悩を少しでも「分けて」もらえるような看護師でありたいと思っています。

 

※所属・役職は掲載時のものです。