数字で見る疾病構造の変化
桝本 妙子(看護学部 看護学科 教授)
疾病構造の変化は、少子高齢化と並んでわが国の保健医療福祉を語るキーワードのひとつとなっています。疾病構造の変化とは、国民の多くがかかっていた病気の質と量の変化のことです。
疾病構造の変化を示している指標のひとつに死亡統計があります。死亡統計は、国民の健康水準を把握するうえで最もよく用いられる指標のひとつです。これによると、第二次世界大戦前は結核、肺炎、気管支炎など呼吸器系疾患による死亡が第1位で、とくに結核は国民病として恐れられ、1940年には国民の470人に1人が結核で亡くなっていました。明治の文豪正岡子規や樋口一葉、石川啄木らが若くして結核で亡くなったのはよく知られています。第二次世界大戦後から経済成長期に入ると、脳血管疾患、心疾患、悪性新生物(がん)が増加し、現在ではがんが死亡の第1位となっています。呼吸器系疾患による死亡は、第二次世界大戦前は結核が多かったのですが、最近では肺炎が多く、現在の死亡順位の第3位を占めています。前者では戦争や貧困に起因する衰弱性疾患である結核が多く、後者では高齢化の影響を受けて肺炎が多くなっています。同じ呼吸器疾患でも、社会環境によって病気の質が異なっています。
また、がん、心疾患、脳血管疾患といった生活習慣病による死亡割合を年次推移でみると、1940年には全死亡の19.0%であったのに対し、1960年では44.2%、1980年では61.9%、2000年では59.8%とおよそ6割を占めています。
健康水準を表すもうひとつの重要な指標に受療率があります。受療率とは、人口10万人に対する推計患者数をいい、3年に1回、特定の日に、全国から層化無作為抽出した医療機関に受診した患者全てを対象に行われる患者調査によって推計します。最近に行われたのは2014(平成26)年で、入院受療率は1,038、外来受療率は5,696です。これは調査日に人口の約1.0%が入院し、約5.7%が外来を受診したことを示しています。
直近の約10年間の推移をみますと、入院受療率は2005年 1,145、2014年 11,038とやや減少していますが、外来受療率は2005年 5,551、2014年 5,696とやや増加しています。入院受療率が減少しているのは在院日数の減少等によるものと考えられ、外来受療率の増加は高齢化等によるものと考えられます。
疾病別に推移をみると(2005年→2014年、以下同じ)、がんの入院が減少し(133→114)、外来が増加(160→182)しています。がん治療が外来で可能となり、がんと闘いながら社会生活を営む人が増えていることがうかがえます。
また、内分泌疾患の外来受療率(299→344)および腎尿路系疾患の外来受療率(197→223)が増加し、今や国民病とも言われている糖尿病の増加とその合併症による腎障害が増加していると考えられます。
さらに、神経系の疾患が入院、外来ともに増加し(入院76→96、外来112→136)、パーキンソン病やアルツハイマー病など高齢化に伴う疾患の増加の表れと考えられます。
精神疾患は入院受療率が最も高い疾患ですが、年次推移ではやや減少し(255→209)、逆に外来受療率は増加しています(176→203)。精神疾患の治療が入院から在宅ケアに移行していることがうかがえます。
このように、疾病構造は社会環境の変化と大きく関わっています。看護は社会の変化に対応することが求められていますので、学生の皆さんも広く社会に目を向け、看護に期待される役割を果たしていかれることを願っています。
文献:『国民衛生の動向2016/2017』厚生の指標, Vol.63, No.9, 厚生労働統計協会, 2016.
※所属・役職は掲載時のものです。