タオルの温かさをどのように保つのか ~温度感覚を鍛え、タオルの扱い方を練習する~

2017/01/23

下岡 ちえ(看護学部 専任講師)

看護師役「冷たい?」

患者役「寒かった」「冷めてる」

これは生活援助技術の授業時に学生が話していた言葉です。生活援助技術とは看護技術の1つで、清潔・摂食・排泄・運動などの日常生活行動を援助する技術のことです。この授業では、実習室で体を動かしながらおこないます。実習室とは、カーテンはじめ、ベッドやオーバーテーブルなどの病室を模した環境が設置されています。この実習室で、ナース服を着用した看護師役の学生が、寝衣を着用した患者役の学生に対して、清潔・摂食・排泄・運動などの援助技術を実施します。

清潔の援助を例にとりますと、ベッド上に寝ている患者の身体をタオルで拭くという清拭の授業があります。本来は温かいタオルで拭くのですが、温度感覚がつかめないことと、タオルの扱いに慣れないことから、冷めてしまいます。そのため、看護師役の学生と患者役の学生から上記のような言葉が出てきます。

そこで今回は、学生がタオルの温かさを保つために、タオルの温度を確認する方法と、タオルの扱い方について具体的に説明します。

まず、タオルの温度を確認する方法について述べます。これには、皮膚がもつ知覚作用を活用します。皮膚の知覚作用の1つに温度覚、すなわち温点と冷点があります。私達は、この温点と冷点により温かさや冷たさを感じています。人体表面の冷点の分布密度は8~23/cm2と温点の分布密度1~6/cm2よりも数倍多いことが明らかです1)。これにより、体を拭かれる患者役の学生は温かさよりも冷たさを感じやすいといえます。他方、冷点に比べると温点の分布密度は少ないですが、温点は頬(5.7/cm2)および前腕(5.4/cm2)が、他の部位に比べ多いです1)。そのため、頬や前腕は温かさを感じやすく、看護師役の学生は前腕にあてて温度を覚えます。また、温度計で測定した数値と感覚を確認します。みなさんもお母さんが赤ちゃんにミルクを飲ませる前に、頬や前腕で哺乳瓶を確認する姿を見かけたことがあるのではないでしょうか。

次に、タオルの扱い方について述べます。体を拭くときには、ハンカチ大のタオルを手に巻き付けて使用します。具体的には、タオルを広げ、縦に三つ折りにして、利き手に巻きます。そして、余った部分を手掌側に折り返し、端を手掌との間に入れ込みます。患者さんにあたる部分に厚みをもたせるのです。また、タオルで患者さんの体を拭く際には、できるだけ患者さんの肌から離さずに密着させておきます。いずれもタオルの表面温度の低下を予防する意味で実施します。

これらを踏まえて、看護師役の学生は、手に巻きつけたタオルの温度を前腕で確認後に、患者役の学生の肌に密着させて拭くという練習をします。前述したように、体を拭かれる患者役の学生は冷たさを感じやすいため、温度について感じたことを看護師役の学生へ伝えます。このように双方からの意見を取り入れタオルの温かさを保つ練習をします。

清拭では、体を拭くためのタオルの温かさを保つために、温度感覚を鍛え、タオルの扱い方を練習します。その他にも、生活援助技術では、人の身体を動かす時の体の使い方をトレーニングします。「生活援助技術」とは、看護技術の1つです。看護技術は、「看護過程を展開する技術」「対人関係の技術」「診療補助技術」などに分類されています。看護過程を展開する技術では、頭をトレーニングし、対人関係の技術では、心をトレーニングします。そして、生活援助技術や診療補助技術では体をトレーニングします。このように看護は頭も心も体も使うのです。

**********************************************

1)田村照子・李旭子(1995).人体表面の温度点分布(第2報)温点分布密度の部位差.人間と生活環境,2(1),37-42.

 

※所属・役職は掲載時のものです。