先輩看護師からの贈り物

2016/09/05

山縣 恵美(看護学部 専任講師)

先日、ふと目に留まったノートを久しぶりに読み返してみた。「私の教育申し送りノート」である。これは、私が新人看護師の時、病棟の先輩看護師が新人教育の一環で記録してくださったノートである。初めて看護師として現場に出た日から約半年間、私が勤務の日は毎回記録が残されている。また、半年経ってからも定期的に1年半にわたり先輩方のコメントは続いている。内容は、私の看護実践に関することで、称賛もあれば、当然指摘を受けることもあり、むしろ指摘の方が割合としては多く…。先輩方は時間をかけて丁寧に指導をしてくださっているにも関わらず、当時の私には、読むのに力が必要な、それはそれは重みのあるノートであったことをよく覚えている。 

今改めて読み返すと、ノートに書かれているのは、知識や技術ではなく、むしろそれらをベースに現場での実践経験を通してこそ身につけることができる内容がほとんどである。先輩方のコメントは、例えばこんなことである。

「5月7日 準夜勤務者に手術直後の患者様の申し送りをしました。申し送りの練習はできなかったようですが、その割にはまずまずわかりやすかったと思います。系統立てて申し送ろうという意識はよく伝わりました。時々指摘したところについては、次はうまく言えるようにしてください。」

「5月18日 手術直後の患者様のバイタルサインを測定するのに時間がかかりすぎです。手術直後なので頻回に状態観察をしなければなりませんが、その間にも自分の担当している他の患者様のケア等が入っていたりもするはずです。最初は時間がかかってしまうでしょうが、もう少し周りにも目を向けてください。“自分一人で任されて看護している”という自覚を持ってください。」

「6月17日 2回目の準夜勤です。夕方、担当患者様のベッドサイドに行ったまま、ナースコールにも、手術後の患者様の帰室にも気が付かず、しばらくステーションに戻ってきませんでした。患者様の話に耳を傾けるのは大切ですが、夜勤帯は看護師がほとんどいません。優先順位を意識すること。」

「9月10日 患者様の大きな状態変化については先輩に報告できていると思います。が、水分量の確認や血圧が高い時の対応など、細かい確認ができているか疑問です。検温や観察をする際はなぜ観察が必要なのか、患者様にはどのようなリスクがあるのかを考えて行動していますか。」

「3月初旬 もうすぐ一年目が終わりますね。二年目は先輩の目が離れて少しのびのび仕事ができるようになるでしょうが、ここらで一度気を引き締めて初心に戻ってみましょう。改めて、自分の行動に全責任を負う自覚をもってください。『プロ』の意識を忘れないでください。今後のさらなる成長に期待しています。」

「2年目9月 この間の夜勤で重症の患者様を担当していた姿を見て成長したなぁと感心しました。また、自分の担当患者様はもちろんのこと、担当ではない患者様の状況も把握し柔軟な対応ができており、視野の広がりを感じました。この調子で頑張れ。」

1年半で埋まったこのノートは、その後自分が新人看護師を指導する立場になった時、看護師として壁にぶつかった時など、何度も読み返している。私にとって読めば初心に戻ることができる、大切なノートである。今回久しぶりにノートを読み返し、新人看護師として切磋琢磨していた日々を思い出した。現在、私は看護師を目指す学生達に関わる立場にいる。初心を大事に、学問としてだけでなく看護師の先輩として看護の魅力を学生たちに伝えていきたいと思う。

 

※所属・役職は掲載時のものです。