Memento Mori ~自分がいつか必ず死ぬことを忘れずに生きる~

2016/05/25

澤村 有紀子(看護学部 実習助教)

人間の死亡率は100%です。
いつどのように死が訪れるかわかりません。
皆さんは自分が死ぬことについて考えたり、臨終の間際になって後悔しないように準備したりしていることがありますか?

 

経済産業省は、本格的な長寿社会を迎え急速に社会が変化し、新たな課題がたくさん生じていることを受け、2012年に「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書」をまとめました。
この報告書において①人生の終末や死別後に備えた事前準備(生前からの準備)を行うこと、②ライフエンドとその後の遺族等による生活の再構築、の双方を重視しています。
とりわけ、①【人生の終末や死別後に備えた事前準備(生前からの準備)行動】が、近年では「終活」という馴染み易い言葉としてメディアでもよく取り上げられるようになっており、関連書籍も数多く出版されています。

 

「終活」という言葉は2009年に新しく登場した造語で定義ははっきりしていませんが、メディアでは、「エンディングノートをまとめる」、「お葬式を決めておく」、「お墓を探しておく」、「財産や相続をまとめておく」、「自分の荷物を片付けておく」など幅広い活動が取り扱われることが多いようです。皆さんにとって「エンディングノート」は少し目新しい用語かもしれません。

 

「エンディングノート」とは、自分の死、自分の判断能力が衰えたときに備えて、財産や意志など自分自身に関する情報をまとめて記入できるノートです(終活読本「ソナエ」,2014より)。出版社/者によって項目は異なりますが、多くは、介護、終末医療、葬儀、お墓、保険、財産といったテーマについて、それぞれ自分がどうしたいかという希望、大切な思い出、大切な人へのメッセージ等を書く欄が設けられています。

例えばこんな項目もあります。

Q. 認知症になったときの財産管理は誰に任せる?
Q. 棺に入れてほしいものは?
Q. 死ぬまでにしたいこと(10個)
Q. これから過ごしたい人生を漢字一文字で表すと?
Q. 自分が死んだら誰に連絡して欲しい?

こうした項目に1つ1つ答えていきます。公式の遺言書としては有効ではありませんが、具体的に行動するのに先立って頭と心を整理することができます。

 

書く段階で、もしくは書いた後に、大切な人と見せ合って互いの希望を知り共有するのもいいでしょう。大切な人にノートの場所だけ知らせておいて、もしもの時に開いて欲しいと言っておいてもいいでしょう。生前言えなかった言葉を大切な人に伝えることができるかもしれません。あなたが何を考えていたのかを家族が知ることができ、悲しみや心の整理に一役買うかもしれません。自分自身の備忘録にもなりますし、自分の生きた証を遺すこともできるでしょう。人生の節目にときおり見直してみるのもいいかもしれません。書くにあたって決まりはなく、何を書くのも、どう使うのも書いた人の自由なノートです。

 

実際に書かれたサラリーマンの男性(60歳台)から感想を聞いたことがあります。
「エンディングノートを書いて自分の人生について振り返ってみたんですね。たくさん書く欄があって時間はかかったんですが、結局はココ【これからどう生きていきたいか】です。『人のためになる仕事をする』という、すっかり忘れていた人生の目標を思い出したのです。元気なうちにと思って、新しい事業に取り掛かり始めました。このノートを書く意義はココにあるのかもしれませんね」。

 

エンディングノートを書いて人生について頭と心の整理をしたことにより、死ぬ準備だけでなく生きる目標ができたというのです。頭で何となく考えていたことが、文字を通してリフレクションされ、明確に意識化されたということなのでしょう。
死ぬまでに残された時間がどのくらいあるかは誰にもわかりませんが、老若男女、誰でもエンディングノートを通してよく「考え」ることで、より充実した生を、より穏やかな未来を紡いでいけるのではないでしょうか。

 

※所属・役職は掲載時のものです。