新生活における睡眠覚醒リズムと健康
野々口陽子(看護学部 実習助手)
新年度が始まりましたね。
新しい生活が始まったこの時期に注意しておきたいのは生活リズムの乱れです。皆さんの生活リズムは大丈夫ですか?
例えば大学生は、それまでの学生生活とはちがって、決められた授業を朝から夕方まで受けるというスタイルではなく自分で選択した授業を受けます。また夜勤や交代制勤務がある職種の人は勤務時間帯が変動します。そのため通学や通勤の時刻に合わせて夜更かししたり、朝寝坊したりすることもあると思います。このような毎日の生活リズム(睡眠覚醒リズム)の変化が、私たちの健康に影響を与えるということをご存じでしょうか?
ヒトには約12時間周期、約24時間周期、約1か月周期など数種類の生体リズムがあります。この中の約24時間周期のリズムをサーカディアンリズムといいます。代表的なのは睡眠覚醒で、朝になると自然に目が覚めて、夜になると眠たくなるというリズムを持っています。この他にも体温やいくつかのホルモンでサーカディアンリズムが確認されています。睡眠覚醒と体温のリズムは同調していて、成人では通常、1日の中で最も体温が高い19時から21時頃は眠りにくく、24時から6時頃の低体温期には眠気が強くなるという関係があります。
サーカディアンリズムは実は24時間よりも長いことがわかっています。しかし私たちの1日は24時間です。つまり、サーカディアンリズムと私たちの1日には誤差があります。この誤差を調整する手がかりとなるのが同調因子です。太陽光、社会生活(学校や仕事)、食事、運動などがそれにあたります。もし同調因子がなかったら、睡眠覚醒や体温のリズムは毎日少しずつ社会のリズムから遅い時刻の方向にずれていきます。そして1週間ほどすると夜中に覚醒し朝になると眠るようになってしまいます。さらに1か月を超えるような長期に渡って同調因子のない環境に置かれると、睡眠覚醒と体温のリズムが同調しなくなります。つまり、「体内のリズムと社会のリズム」だけでなく「体内のリズム同士」も同調できなくなります。それに伴い私たちの体は様々な不調を起こすようになります。
社会生活(学校や仕事)は太陽光の次に強力な同調因子で、決まった時間に学校や仕事に行くということが睡眠覚醒リズムを規則的に整えます。しかし、大学生のように通学時刻が決まっていない場合や、夜勤や交代制勤務をしている場合は、通学や通勤の時間に合わせて睡眠時間も変動させることが多くなります。このように、日々、起床と就床の時刻を変動させると、次第に睡眠覚醒と体温のリズムが同調できなくなり、心身の不調をきたすようになってしまいます。具体的には、日中の眠気、疲労感の増加、思考力や集中力の低下、胃腸障害などです。さらに夜間起きていることに関連して、高血圧、糖尿病、がんなど、重篤な疾患のリスクも増加するといわれています。
太陽光は最も強力な同調因子で、もし、夜更かしをしてしまったとしても、翌日、午前中のできるだけ早い時刻に日光を浴びることによって、ずれてしまった睡眠覚醒リズムをリセットし、規則的なリズムに戻すことができます。一方で夜になってから強い光を浴びると、さらに睡眠覚醒リズムがずれてしまいます。私たちの生活において欠かせない蛍光灯による光や、テレビ、パソコン、スマートフォンなどのモニターの光も、睡眠覚醒リズムに影響します。つまり、夜遅い時間にこれらを使用していると、眠気がおこりにくくなるということになります。
睡眠覚醒リズムは唯一、生活習慣の見直しをすることで意識的にコントロールできる体内リズムといえます。まずは睡眠覚醒リズムと社会のリズムを同調させることを意識して、規則的な生活を心がけてみてください。そうすることで心身の調子が整い、もっと充実した生活ができるはずですよ。
※所属・役職は掲載時のものです。