「看護学部のSPさんを紹介します」
杉原 百合子(看護学部 准教授)
皆様、「SP」という役割をご存知でしょうか。同志社女子大学看護学部には25名のSPさんがおられます。首相等の要人警護を担うセキュリティポリス(Security Police, SP)ではありません。
本学部では看護実践能力を育成するためにいくつかの取り組みを行っています。その一つに「客観的臨床能力試験(OSCE:オスキー)」があります。OSCEとは、臨床に近い環境での実技試験のことで、判断力・技術・マナーなど実践現場で必要とされる基本的な臨床技術の習得を適正に評価する方法です。OSCEは1975年頃英国の医学教育で端を発し、わが国では1994年川崎医科大学で導入されたのが始まりとされています。その後2005年には医歯学系で臨床実習開始前の「共用試験」に正式採用されました。一方、看護教育では2001年頃から大学等で導入されるようになりましたが、全体的な広がりには至っていない状況にあります(中村恵子編,看護OSCE.メヂカルフレンド社,2011.)。2011年に実施された調査によると、全国看護系大学におけるOSCE導入率は13%で、「導入中」の大学を加えても17%という結果でした(堀込由紀他,看護基礎教育におけるOSCE導入に関する検討:全国看護系大学のOSCE導入の現状調査.日本看護学会論文集, 看護教育 45,47-50, 2015.)。
本学部では、1年次から4年次まで段階的に積み上げていく「看護実践総合演習」という科目で、OSCEを取り入れています。日本語では「客観的臨床能力試験」となっていますが、点数化することが目的ではなく、学生が自分の課題を見つけ、自己学習へと繋げることが大きな目的です。医歯薬系のOSCEが「試験」であるのに対し、看護教育におけるOSCEは、看護実践能力を「育てる」看護OSCEなのです。
前置きが長くなりましたが、この看護OSCEで重要な役割を果たすのが模擬患者=SP(simulated patient)です。看護OSCEでは、臨地実習でよく経験する場面を設定し、学生は決められた時間内にそれに対応した看護を行います。その時に、患者様役として、看護学生を相手に実際の患者様と同じような症状や会話を演じる人のことをSPといいます。そして実施後に、学生の看護を受けてどう感じたか、患者様の立場からアドバイスをいただきます。このように、SPは学生のコミュニケーション・看護技術教育において大切な役割を担っています。看護OSCEを実施するにあたって、SPの協力なくして実施は不可能と言えます。
本学のSPさんはほとんどの方が本学京田辺キャンパスのある京田辺市にお住いの方です。京田辺市役所のご協力で広報誌に掲載していただいた募集記事をご覧になり、ご応募してくださった方々です。年齢も経歴もさまざまな方々が、学生の役に立ちたい、社会貢献したい等の思いから集ってくださいました。
去る2016年1月15日と18日に本学部では看護OSCEを行い、その際22名のSPさんにご協力を頂きました。それに先駆けて、年末の忙しく寒い時期に何度も大学に足を運んでいただき、練習を重ねてくださいました。看護OSCE当日、学生は緊張の中でも、SPさんのあたたかい眼差し、「良い看護師さんになってね」の思いのこもったアドバイスから、たくさんの応援をいただいたような気持になったことと思います。その応援にこたえるためにも、良い看護職になろうとの気持を新たにしたことと思います。そして、その気持は教員も同じです。ご協力いただいた地域の皆様にお返しできることは、質の高い看護職を育てることに尽きると考えます。教員一同、さまざまな人の思いに寄り添える、そして高い看護実践能力を備えた看護職者の育成に邁進していきたいとの思いを新たにいたしました。
最後になりましたが、同志社女子大学看護学部のSPとして教育活動に多大なご支援をいただきました25名の皆様に、厚く御礼申し上げます。
※所属・役職は掲載時のものです。