「産む力」と「生まれる力」を助ける-助産所や自宅での出産-
植松 紗代(看護学部 専任講師)
みなさんは、どこで産まれましたか。出産の場所には、産婦人科の病院や診療所、助産所や自宅などがあります。2014年の出産場所をみますと、病院や診療所99.1%、助産所0.7%、自宅0.2%と、大部分の赤ちゃんは病院や診療所で誕生しています。60年前(1955年)は、病院や診療所15.2%、助産所2.4%、自宅が82.4%と、自宅での出産が最も多く8割を占めていました。その後、高度経済成長や医療の進歩と共に出産場所は大きく変化し、10年後(1965年)には病院や診療所71.1%、助産所12.9%、自宅16%と、出産場所は自宅から病院、診療所などの施設に移行し現在に至っています。今回は、助産所や自宅での出産について紹介します。
助産所や自宅での出産は、都道府県知事に届け出た開業助産師が妊娠中から産後までのケアを行います。妊娠中の定期的な妊婦健診では、毎回同じ助産師がゆっくりと妊婦さんの訴えを聞きながら、血圧測定・尿検査・胎児心拍数の確認・腹部の触診などにより赤ちゃんの成長や母体の健康状態をみていきます。そして妊婦さんは、助産所が連携する産婦人科の嘱託医を受診し(妊娠中に2回)、助産所や自宅での出産が可能な経過であるか医学的判断を受けます。
助産所では、妊婦健診から出産、産後まで原則として薬や医療技術などの医療介入が行われないことから、医療機器に囲まれることなく家庭的な環境や雰囲気です。出産時は、産婦さんが望む人たちに囲まれ迎えることができ、妊娠中からサポートを受けている助産師がそばで見守り、出産の介助を行います。出産した方の感想は、「健診から出産まで1人の助産師さんが全部みてくれ、出産の時は陣痛中から付きっきりでいてくれるので安心だった」「入院中は、病院とは違って家庭的で癒される空間でのんびり過ごすことができた」など、家庭的でリラックスした雰囲気や助産師との強い信頼関係が感じられます。
一方、自宅出産の場合は、普段過ごしている生活の場で子どもの誕生を家族で迎えます。産婦さんはもちろん、出産を一緒に迎える家族も、知らない環境に緊張感をいだいたり戸惑うことなく出産に集中することができます。自宅で出産をした方は、「出産は本当に“日常の一環”という感じだった」「夫は私を支えながらカメラを構え、子どもたちは普通に走り回って遊んでいるし、産む直前まで笑って出産できた」と自分の家であるからこその日常のリラックスした中での出産の様子が伺えます。
このように、助産所や自宅では自然で家庭的な出産ができます。しかし、それは望めば叶うことではありません。助産師が扱う出産は法律によって、合併症がなく、正常な妊娠、出産であることが定められています。正常な妊娠・出産とは、妊娠中を健康に過ごし、妊娠37週以降で42週未満の出産のことです。さらに、胎盤の位置に問題がなく、逆子をはじめ双子など多胎でないこと、帝王切開の既往がないこと、合併症・感染症や子宮の手術の既往のないこと、妊娠中に血圧・血糖値、胎児や羊水に異常がないなど、厳しい条件が規定されています。これらの条件は、妊娠・出産では、順調と思われる経過であっても、母子共の生命に関わる異常や急変の生じる可能性があるためです。したがって、助産所や自宅での出産を希望する場合は、これらの条件をクリアすると共に、正常な経過を維持するための努力が必要です。
本来、妊娠・出産は病気ではありません。女性は妊娠すると自分で「産む力」、赤ちゃんは「生まれる力」を持っています。助産所、自宅、病院や診療所など出産場所はどこであっても女性本来の力を最大限に活かすには、健康なからだづくりが基礎となります。将来の自分の健康のためにも、食事や生活習慣を見直しからだを整えていきましょう。
※所属・役職は掲載時のものです。