未来を育む看護
川崎 友絵(看護学部 助教)
英和辞典で「nurse」を調べると、「看護師」のほかに「乳母」、「授乳する」、「大事に育てる」等の意味が記載されています。語源は「養う、食物を与える」というラテン語だそうです。小児看護を通して「子どもを大事に育む」ことは、まさに看護師のルーツともいえる仕事に携わらせて頂いていることになり、姿勢を正さずにはいられません。
小児看護の対象は、著しい成長発達過程にあり、未来を創造していく子どもです。ですので、小児看護は「未来を育む看護である」と言われることがあります。実際には、子どもとそのご家族、広くは子どもを取り巻く全ての人々、場所、環境を小児看護の対象とします。また、病気や障がいの有無にかかわらず、健康な状態の時も看護の対象とします。すなわち、子どもが存在すれば、そこに小児看護があるといえるのです。看護職の代表的な仕事の場である病院や診療所のほかに、訪問看護ステーション、地域の保健センター、保育園、幼稚園、学校、福祉施設等、様々な場所で子どもとご家族に寄り添っています。近頃の子育てをめぐる複雑な問題の前には、ご家族、そして子どもと向き合う多くの職種と連携、協力し「幼い命」を24時間365日、大事に見守り育み続けます。
冒頭で、「語源」のお話をしましたが、実際の看護と子育てにおいても、その共通点の多さを日々感じています。その一つ目は、「生命を預かっている」ということです。看護は、人間の「生と死」に寄り添う仕事です。そして、子育てをする親も「小さな命」を懸命に守っています。「命を大事にする」行為は、もっとも大きな共通点といえるでしょう。二つ目は、その人の「身体に触れる」ということをあげたいと思います。看護の「看」の字は、「手」と「目」で「看る」ことを意味していますが、どんなに時代がすすみ、便利な機器類があふれたとしても、看護も子育ても「手」で触れる温もりの大切さは変わりません。さらに、みて(見て・看て)、きいて(聞いて・聴いて)、さわって(触って)、かいで(嗅いで)、あじわって(味わって)等の、私たちに備わっている五感をフル活用して、その人を観察したり、お世話をしたりすることが、看護にも子育てにも必要不可欠であると考えます。最後の三つ目は、他者と協力することが重要であることです。看護はチームワークがとても大切な仕事です。また、子育てにおいても、母親がひとりで頑張るのではなく、家族、地域、社会全体で子どもを見守り育んでいくことが大切です。他にも共通点はたくさんあると感じています。やはり看護は、時代の変化に流されない「人」として大切な普遍的な事柄を考えさせてくれる職業といえるのではないでしょうか。
これから、看護の道を歩もうとする学生さんたちへ・・・
最近、偶然に、筆者が看護学生だった頃に小児看護学実習で出会ったAさんから、嬉しいお知らせをいただきました。子どもの頃、生命にかかわる大きな手術を受け、様々な困難を余儀なくされたAさん。Aさんは現在、念願だった看護学生となり、看護師への道を歩んでいるというのです。「あの時に、出会った看護学生の○○さん、○○さんのことも、よく覚えているよ。あれから、看護ってとても心地の良いものだと思ったんだよ。」とメッセージをくれました。当時筆者は、全てにおいて未熟で、ただただ一生懸命が取り柄の看護学生でした。でも、小児病棟で一緒に過ごした時間は、Aさんにとっても、かけがえのない時間となったのかもしれないと思うと、嬉しさでいっぱいになります。また同時に、看護はその人の人生に大きな影響を及ぼすことを実感し、身の引き締まる思いです。素敵なメッセージをくれたAさんに心から「ありがとう」と言いたいです。そして、幼い時の困難を乗り越え、いま看護師として、再び病と向き合おうとするAさんの勇気と強さ、優しさに敬意を表します。
看護はその人の人生に影響を及ぼすかもしれない仕事です。子どもに携わる小児看護では、そのことの重大さをけっして忘れず、常に子どもの心に寄り添ったケアを一緒に学んでいけたらと思います。
※所属・役職は掲載時のものです。