BLSで救える命
天野 功士(看護学部 実習助手)
「あなたは目の前で大切な人が倒れたら、助けることができますか。」
暑い季節は、水難事故や熱中症などのニュースをよく耳にします。また、脱水により体内の血液が濃縮され、血栓ができやすくなることで心筋梗塞、心停止をきたしやすいといわれています。溺水によっても心肺停止状態におちいることもあります。夏は、突発的に体調を崩しやすい時期といえます。
もし自分の大切な人が目の前で突然倒れてしまった時、自分ならどうするかということを考えたことはありますか。皆さんはまず救急車を呼ぶでしょう。自分ひとりで対処せずに、救急車を要請することは非常に重要です。では、救急車が到着するまでの間に何をしますか。平成21年「救急・救助の現況」のデータによると、119番に通報し救急車が到着するまでに、全国平均は約8分、京都府では約7分かかるといわれています。この数分間の対応が、命を救うためにとても大切になります。なぜなら、心臓が停止したまま3分間放置された場合、その後の手当てで助かる確率は、およそ50%に低下するといわれているからです。つまり、心停止により倒れた場合、救急車が到着した時にはすでに半分以上の命が失われてしまうことになります。これらのデータから、救急車を呼ぶだけでなく救急車が到着するまでの対応が生死を分ける鍵を握っており、大切な人の命を救うためには、皆さんがその数分間で適切な応急処置を行うことが重要です。
では、この適切な応急処置とはどういうものでしょうか。救急車が到着するまでの数分間に、一般市民でも実施可能な救命処置にBLS(一次救命処置)があります。BLSとは、Basic Life Support(ベーシック・ライフ・サポート)の略で、その場に居合わせた人が、救急救命士や医師に引き継ぐまでの間に行う救命処置のことです。BLSの一連の流れの中に、胸骨圧迫(心臓マッサージ)とAED(Automated External Defibrillator)があり、傷病者の心肺蘇生が行われます。AEDとは、心停止傷病者を自動で解析し除細動を行う器械のことです。早期の除細動を実施することにより、心停止傷病者の心肺蘇生に劇的な効果をもたらすといわれています。AEDは2004年7月から救急救命士や医師に限らず誰もが使用できるようになりました。その影響で、街を歩いていると頻繁にAEDを見かけるようになりました。このAEDを含めた救命処置の一連の流れを習得するために、全国各地でBLS講習会が開催されています。自動車教習所の講習や学校の授業の一環として開催されており、最近では一般市民を対象としたBLS講習が活発に行われています。
皆さんの中には、すでにBLS講習会を受講したという方もいると思います。もし講習を受講して数年経過していたら、自信をもって実施できますか。私はBLS受講後の期間が空いた場合、実施することにどの程度影響するかについて、調査を行いました。BLS講習を受講してから1年経過した人と2年経過した人のBLS実施状況を比較した結果、受講後1年と2年で差はなく、どちらも救命処置の実施は不十分でした。この調査から、BLSを実施するためには1年以内の定期的なBLS受講が必要であると分かりました。また、BLSの手順は、約5年毎に手順や方法が見直されているため、定期的な受講により最新のBLSについて習得することが可能となります。さらに繰り返し受講することにより技術が定着し、突然人が倒れ周囲が混乱している中でも素早く的確な対応ができるようになります。
多くの命を救うためには、救急車が到着するまでにBLSを実施できるかどうかが鍵となります。BLS受講者が増えることで、多くの命が救えます。講習会は半日あれば受講でき、誰でも気軽に参加できます。この機会に、講習会を受講してみませんか。また、既に受講した方でも時間が経過すると正確に実施できなくなります。技術の復習と知識のアップデートを兼ねて、もう一度BLS講習を受講してみてはいかがでしょうか。
※所属・役職は掲載時のものです。