看護学部の始動

2015/04/01

岡山 寧子(教授 / 看護学部長)

2015年4月1日、同志社女子大学に6番目の学部となる看護学部がスタートしました。京田辺キャンパスの北にある看護学部関連棟「蒼苑館」を中心に、看護学の教育・研究が始まります。煉瓦色の中にも白さがまぶしい新学舎をながめながら、設置準備メンバーの一人として、準備を進めてきた時間が走馬燈のように頭に浮んできました。と同時に、看護学部をいかにスムーズに発進させていくのか、さらに充実・発展させていくのか…そんなことを考え、身の引き締まる思いにかられています。

振り返ると、今まで多くの場をお借りして「看護学部開設」をアピールしてきました。昨年秋に開催のシンポジウム「いのちと向き合う、看護のこれから」をはじめ、「看護の未来」シリーズなどの新聞広告、入試広報やオープンキャンパス、大学案内パンフレット、同窓会の方々への講演など。また電車の中や駅構内でユニフォーム姿の学生の広告ポスターがキラッと輝いていたことをご記憶の方もおられるでしょう。今となっては、その一つ一つに感慨深い思い出がありますが、いつも中心軸にあったのは、「同志社女子大学らしい看護学教育」について、いかに伝え、理解いただくのか・・・ということでした。そのために、本学の教育理念に基づいて、どのような看護学教育を展開していくのかということにこだわりながら、様々な議論を重ねてきたという思いがあります。
そこで、スタートした看護学部のコラムとして、改めて「同志社女子大学看護学部のめざす教育」について、お話ししたいと思います。

ご存じの通り、同志社女子大学は、「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」を教育理念としています。「キリスト教主義」では、自らのためだけでなく、自由かつ主体的に他者への愛を実践できること。他者への思いやりや人に寄り添える心を育みます。「国際主義」では、世界的な視野に立って、人類の共生に取り組み、異文化の理解や多様性を受け入れる姿勢、そして「リベラル・アーツ」では、多様な分野の学問を修めることで広い視野を養い、物事の本質を捉える力を身につけ、人間力を育みます。これらは、伝統を大切にしながら、良心を持って知識や能力を発揮し、社会の礎となって活躍する、自立した女性を育むことをめざしています。

一方で、新島襄には医療人教育に対する深い思いがありました。その流れの中で、1886(明治19)年、京都看病婦学校・同志社病院を開設しました。翌年の夏には病院・学校の建物が竣工、京都府から正式に認可を受け、日本で2番目に古い看護婦(現・看護師)養成機関となりました。1888(明治21)年には初めての卒業生を出しました。新島の死後、経営は医師・佐伯理一郎に移りましたが、その志はしっかりと引き継がれていきました。産婆学校を併設するなどの経過を経て、1951(昭和26)年に最後の卒業生を送り出しました。65年間の歴史の中で、卒業生は2000人を越え、国内外の看護の発展に貢献していきました。
新島は、キリスト教的な福祉観や隣人愛、あるいは他者のことを思う気持ちは医療分野には欠かせない、と考えていたようで、看病婦学校設立に向けて「真実の愛心を以て病人の為にする人が入用である」と述べています。そして、設立の目的を3つ挙げています。初めの「病人の苦痛を救うこと」は、やはり「愛心を以て」に通じます。2つめは「看病人を養成すること」。最後は「病人の心を慰めること」。病人の気持ちになって看病することをしっかり勉強するようにと示しています。また、「看病婦の熟練したるものは、医者の薬法よりも大切なる事」と。看護の力は凄い、熟練といっても機械的な熟練ではなく、精神的な熟練が必要だとも述べています。これは現代にも通じる看護の姿、「看護の心」だと思います。

同志社女子大学看護学部の教育は、大学の教育理念を礎に、新島の医療・看護に対する深い思いを受け継いでいくことを基盤としています。その上で、「現代の看護ニーズに対応できる看護実践力を備えた質の高い看護職者の育成」をめざします。
少子超高齢社会にある現在、保健・医療・福祉サービスの多様化や医療体制の複雑化などが進む中、それらに対応できるよう、幅広く良質な看護実践が必要とされています。したがって、看護学教育に求められるのは、多様な現場で活躍できる人物、様々な人の思いに寄り添いながら健康上の課題にしっかりと取り組むことができる人物の育成です。 そのため、看護学部では、看護学の専門的な知識・技術・態度を段階的に積み上げる形で学べるように工夫し、「知る」「わかる」から「実践できる」看護力を育てます。例えば、1~4年生までの一貫して実施する「看護実践総合演習」では、看護職としての基本的な姿勢、臨床判断能力や現場で必要な実践力、学生自身のキャリアデザインなどを有機的に結びつけ、段階的に積み上げていきます。
また、看護学の講義・演習・臨地実習での学びに加え、いつでも自由にその知識や技術をくり返し学習できるようにe-learningやプラクティカル・サポート・センターでのシミュレーション学習など、主体的な学びができる環境を整備し、「自ら学ぶ力」を育てます。これらの学修成果は、看護OSCE(客観的論証能力試験)で確認します。それは、臨地実習でよく経験する場面を設定、学生はそれに対応した看護を行い、実施後に看護教員や模擬患者さんなどからの評価を受けて、自己の学習課題を明らかにして次の課題に進むものです。

これらの学びを通して、様々な看護場面で求められる専門知識や技術、そして「看(み)て護(まも)る」の意を込めた「看護の心」を大切に育てていきたいと思います。また、4年間という期間で看護実践力を少しでも身につけることは勿論ですが、看護職者になるために必要な幅広い人間力を養うことも大切です。そして、「看護とは何だろう」「こんな看護がしてみたい」という思いを原動力に、看護職になっても、自らの人生の様々な場面で看護にこだわることのできる「看護の志」を持ち続けられるようにと願っています。

最後に、看護学部教員の一人として「同志社女子大学看護学部で学んだことが自分の看護の原点」と思っていただけるような教育ができるようにがんばりたいと思います。

 

※所属・役職は掲載時のものです。