溢れるマネー、暴れるマネー?
田口 奉童(現代社会学部 社会システム学科 特別任用教授)
いま世界中にマネーが溢れている。それは、2008年秋に勃発したアメリカ発のリーマンショックが引き金となった世界の金融・経済危機に対処するため、アメリカのFRB、ユーロ圏のECB、英国のイングランド銀行、それにデフレ脱却をめざす日本銀行など先進国の中央銀行が揃って、大幅な金融緩和策を実施、約10兆ドルもの資金を市場に供給したためである。
とりわけ、日本に注目が集まっている。アメリカは2014年10月に金融緩和の収拾段階(出口戦略という)に入っており、ユーロ圏ではこれから本格始動しようとしているのに対し、日本は13年4月に「異次元金融緩和策」、その上14年10月には世界へのサプライズとなった大胆な「追加金融緩和策」を打ち出し、資金放出を急加速中だからである。その規模は、対GDP(国内総生産)比約60%と他国の2倍程度と大きい。
上の異次元金融緩和策は、アベノミクスの1の矢としてデフレ脱出をめざし、2年間にマネタリーベースを2倍にして、消費者物価を2%に引き上げることを目標に置いた。円安と株高により気分を一新させたものの、想定外の原油価格の低下に伴い物価の目標達成が危ぶまれたために、やれることは何でもやる!と追加金融緩和策に踏み込んだ。
金融市場の一つ債券市場では、日銀が巨額の資金放出方法として国債を買占めるため、国債10年物利回り金利(図参照)が0.2%台に低下、その裏返しで国債価格は暴騰、バブル状態となっている。その煽りで、生保の貯蓄保険や社債の市場は、余りの低金利で、取引不成立状態に陥ってしまった。これは、緩和策の副作用?マネーの暴走?それとも新手のクラウディング・アウト(民間資金調達の締め出し)なのか?
そもそも、我が国のデフレ脱出が、マネタリーベース(日銀当座預金)の増加により実現可能とする明確な理論的裏付けはない。人口減少、少子高齢化、実質賃金の下落、産業の空洞化など経済の構造がデフレの要因とする論説もある。上の追加金融緩和策は、金融政策を決める9人の日銀金融政策決定会合のメンバーが、賛成5対反対4に大きく分かれた決議であった。
さあこれから、特に日本の、金利、物価、株価、為替がどう動くか、目が離せない。
*本稿は、2月6日午前開催予定の現代社会学部最終講演会で話す概要である。
※所属・役職は掲載時のものです。