睡眠と健康:就寝前の環境を考える

2014/12/26

眞鍋 えみ子(現代こども学科 教授 / 2015年4月 看護学部 教授就任予定)

赤ちゃんが眠そうな様子をしている時に手足を触ってみると、ポカポカと暖かくなっているのをご存じですか?今回は、就寝前の環境についてみていきます。

睡眠中は脳や体を休息させるために基礎代謝は減ります。したがって、体の深部体温は低下し、呼吸や心拍数も少なくなります。この体温を下げるためには、副交感神経系の活動が活発になり、手足や顔などの末梢血管が拡張して放熱されます。だから、赤ちゃんの手足がポカポカしたり、コタツに入るとついついウトウトしてしまいます。ところが冷え性の方は、普段は冷たい外気に対して抹消の血管を収縮させることによって、放熱を防いでいます。この作用は交感神経系の働きです。そのため眠る前も上手く深部体温が下がらずに寝つきが悪くなります。

就寝前に体からの放熱を促すには手足を暖めることが大事です。一番手っ取り早い方法はお風呂に入ることです。その際にはお湯の温度と入るタイミングがポイントとなってきます。長風呂や熱いお湯につかる場合は、就寝2時間前くらいにお風呂からあがると、入浴により体温が上昇し発汗や放熱作用が起こります。さらに生体リズムによって体温が下がるタイミング(*注①)とちょうど一致して、就寝前には体温の低下がすすみます。就寝直前にお風呂に入る場合は、ぬるめのお湯にさっとつかるのがよいでしょう。そして、電気毛布やアンカなどで布団の中を暖めておくのも効果的です。ただし、布団の中を一晩中温め続けますと、高温状態、すなわち夏の環境で寝ることになり深部体温の低下を妨げますので、就寝直前にはスイッチを切りましょう。
また、同じように考えますと、汗ばむような運動も就寝前2時間には終えておくことや考え事をしている時は脳の温度は下がらないので、就寝前に考え事や悩み事はしないことも大切です。このように深部体温のコントロールは睡眠の質と大きく関わっています。

さらに、睡眠の質に関係するのがメラトニンという体内で分泌されるホルモンです。メラトニンは、明るくなると分泌が抑制され、暗くなると分泌が増えるという特性をもっています。ヒトにとって、メラトニンは「夜になったので寝る時間ですよ」というシグナルでもあります。一方、夜行性の動物にとっては、活動するシグナルとして働きます。

メラトニンの特性からも、就寝の1時間前からは暗めの暖色系の照明にすると、脳の興奮や交感神経の活動も低下し、メラトニンの分泌も促されます。また、睡眠中は30ルックスの光でも眠りの妨げになると言われていますので、できるだけ暗い状況で寝ることをおすすめします。特にパソコンやスマートフォンから発せられるブルーライトは目に見える光の中でもっともエネルギーが強く、メラトニンの分泌を抑制します。寝る直前までスマートフォンを操作していますと、ブルーライトにより目が刺激されて脳は昼間の状態が続いていると認識し、メラトニンの分泌は抑制されます。その結果、睡眠の質を落とす要因のひとつになります。

就寝前の普段の生活習慣や行動を振り返り、これらの環境を上手く整えることが睡眠の質の向上につがると思います。

*注①:体温は、日中に高く、夜に下がりはじめます。特に午前4時前後に最低となり、1日の変動幅は1℃程度です。

 

※所属・役職は掲載時のものです。