この漢字なんと読みますか(その2)

2020/09/09

吉海直人(日本語日本文学科 特任教授)

 

前回に引き続き、難読漢字の第二弾です。まずは古典の教養として『源氏物語』の巻名の読みから出題します。次の5つの巻はなんと読みますか。

①空蝉  ②賢木  ③澪標  ④早蕨  ⑤総角

これが読めないと『源氏物語』が好きだなんていえません。「空蝉」は「うつせみ」です。「くうせみ」「そらせみ」なんて読まないでください。歌人で国文学者の「窪田空穂」も「くぼたうつほ」でした。「賢木」は「さかき」です。「かしこき」「けんぼく」ではありません。「榊」(国字)とあったら読めましたか。「澪標」は大阪市のシンボルマークにもなっているので、大阪在住の人なら簡単に読めるはずです。また百人一首にも詠み込まれています。かつて放映された沢口靖子主演のNHK朝ドラでは「澪つくし」と表記されていました。もうおわかりですね。そう「みおつくし」です。「早蕨」は易しい方です。「蕨餅」があるし、埼玉県には「蕨市」もあります。「早」は「早苗」(さなえ)があります。これは「さわらび」でいいんです。「総角」はちょっと難しいかな。これで「あげまき」と読みます。歌舞伎では「揚巻」と表記されています。髪型や紐の結び方に由来している言葉です。

次は海の五段活用です。これが読みのヒントになっています。さあ考えてみてください。

⑥海人  ⑦海豚  ⑧海胆  ⑨海老  ⑩海髪

お馴染みのものもありますね。「海人」は「あま」です。「海士」とも「海女」とも書きます。「海豹」は「あざらし」と読みます。では「海豚」はどうでしょうか。「くらげ」は「海月」、「かば」は「河馬」でしたね。これは「いるか」です。また「海参」は「いりこ」と読みます。「海鼠(なまこ)」を干したものです。「海胆」はみなさんの大好きな「うに」です。「雲丹」が一般的ですが「海胆」とも「海栗」とも書きます。次の「海老」が一番簡単ですね。「えび」は「蝦」とも書きます。最後が最大の難問です。「あいうえ」ときていますから、「お」から始まることはわかりますよね。正解は「おご」でも「おごのり」でもかまいません。海草というか海苔の一種です。ついでながら「海星」とあったら「ひとで」です。「星」とあるのでわかりますよね。

では鳥の名前はいかがでしょうか。これは少し難しいかもしれません。

⑪木菟  ⑫金糸雀  ⑬啄木鳥  ⑭鸚哥  ⑮信天翁

「木菟」は「みみずく」です。「耳木菟」とあればわかったでしょうか。なお似ている「ふくろう」は「梟」と書きます。「金糸雀」は色のきれいな雀、そう「カナリア」です。「啄木鳥」は「きつつき」と読みます。「小」をつけて「小啄木鳥」とすると、読みが「こげら」に変ります。なお「啄む」は「ついばむ」です。「鸚哥」は「鸚鵡」(おうむ)に近い鳥です。そう「インコ」です。「背黄青鸚哥」(セキセイインコ)とあればなんとなくわかりますよね。最後の「信天翁」が一番の難読語です。これで「あほうどり」と読みます。「阿呆鳥」とあればわかりますよね。なお「鶺鴒」(せきれい)も候補の一つでした。

続いて果物の名前からの出題です。「檸檬」(レモン)は問題にもなりません。

⑯無花果  ⑰鳳梨  ⑱甘蕉  ⑲万寿果  ⑳木通

「無花果」(いちじく)はよく目にするので簡単ですよね。「鳳梨」もよく食べる果物です。もちろん「梨」ではありません。もともと「パイナップル」の中国語でした。では「甘蕉」はいかがでしょうか。「芭蕉」の葉に似た植物に実る甘い果物というと、そう「バナナ」です。「実芭蕉」も「バナナ」のことです。次の「万寿果」からどんなフルーツを想像しますか。これで「パパイヤ」と読ませています。「蕃瓜樹」とも書きます。「乳瓜」とか「木瓜」と書いても「パパイヤ」のことです。ただし「木瓜」は「ぼけ」とも読みます。「木通」はあまり馴染みがないので、難しいかもしれません。他に「通女」・「山女」(ヤマメ)・「丁翁」・「通蔓草」・「決明草」とも書きます。でもこれではヒントになりそうもありませんね。では「朱実」ではどうでしょうか。そうです「あけび」です。もともと実が大きく割れるので「開け実」と称されたのでしょう。

最後は植物(花)からの出題です。「紫陽花」(あじさい)・「土筆」(つくし)・「向日葵」(ひまわり)・「合歓」(ねむ)・「竜胆」(りんどう)くらいでは簡単すぎますよね。

㉑杜若  ㉒風信子  ㉓鬼灯  ㉔蒲公英  ㉕仙人掌

「杜若」は「かきつばた」と読みます。「燕子花」とも書きます。「風信子」は「ひやしんす」です。口にしてみるとなんとなくわかります。もちろん「病気」の「風疹」とは関係ありません。「鬼灯」は「おにび」ではありません。「ほおずき」のことです。お盆にご先祖の霊を迎える際の目印の提灯としても使われています。「酸漿」とも書きます。「蒲公英」はどうでしょうか。そのあたりの道端や空き地に普通にある花です。そう「タンポポ」です。「鼓」に似ているので「鼓草」ともいいます(「タンポポ」も鼓の音)。最後の「仙人掌」は、これで「さぼてん」と読みます。「ウチワサボテン」の実物を見ると、「人」「掌」とあるのが納得できるはずです。

いかがでしたか。外国語にまで漢字を宛てるのが日本語の面白さでしょう。今回は25問中15問以上で合格です。

 

 

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