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忙しい人ほど要注意!鉄分不足が招く知られざる健康リスク
健康診断では分からない?鉄欠乏性貧血と“かくれ貧血”の違い
鉄分不足というと、“貧血”を思い浮かべる方も多いと思います。体内のヘモグロビン値が基準値以下になってしまった状態を“貧血”といいます(下表)。その中で最も頻度が多いのが、体内の鉄分が不足することでヘモグロビン合成ができずに起こる鉄欠乏性貧血です。健康診断で「貧血」を指摘されたことがある人もいるかもしれません。しかし、一般的な健康診断で“貧血”が指摘される段階では、鉄分不足がかなり進行してしまっていると考えられます。
鉄分は食事から摂取され、その一部がヘモグロビンの合成に使用されます。すぐに使用されない鉄分は貯蔵鉄として、肝臓に貯蔵されます。体内で鉄分が不足すると、まずは貯蔵された鉄分から補われていきます。そのため、ヘモグロビン合成に使用される鉄分までもが不足して、健康診断で“貧血”が指摘された段階では、貯蔵鉄がかなり少なくなっていると予想されます。このように、ヘモグロビン値が正常範囲であっても貯蔵鉄が不足している状態を“かくれ貧血(潜在性鉄欠乏症)”といいます。日本の月経のある女性の4人に1人が、鉄欠乏性貧血、半数以上がかくれ貧血であるとも推察されています。鉄分不足を見つけるためには、血清フェリチン値という値を調べる必要がありますが、通常の健康診断では測定されません。鉄分不足の症状やリスクが心配な場合は、専門家に相談しましょう。
鉄分が不足する理由と見逃しやすい鉄分不足の罠
鉄分不足は、見逃されがちな健康問題です。体内の鉄分バランスが崩れる原因は、①鉄分の摂取不足あるいは吸収不良、②鉄分が失われる状態がある、③鉄分の利用が増加している、などが考えられます。
①に当てはまるのは、食事量を極端に制限している人や、食事内容に偏りがある人です。
②には、月経量が多い女性が当てはまります。経血量が多い(過多月経)と、体内の鉄分が急速に失われるため、鉄欠乏に陥りやすいです。経血の量は、なかなか人と比較することがなく、自分の経血量が多いことに気づかない女性も多いです。経血量の多さの陰には、子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が隠れている場合もあります。過多月経の重症度によっては、食事からの鉄分摂取だけでは、改善が見込めないことがあります。以下の「過多月経チェック」にあるような症状が続く人は、一度婦人科受診を検討してみてください。男性では、大腸がんや胃がんなどに起因する消化管出血があると、鉄喪失につながります。
③は、小児・思春期の成長期や妊婦・授乳中では、身体が通常よりも多くの鉄分を必要とするため、鉄分不足になりやすいです。鉄分不足の初期症状は、疲れやすさ、イライラ、集中力の低下など、いろいろな原因が考えられるものが多く、鉄分不足が原因と気づきにくいです。また、鉄分不足は徐々に進行することが多く、鉄分不足の状態に体が慣れている場合は、自覚症状がない場合もあります。
明日からできる鉄分補給
鉄分不足に陥らないためには、鉄分不足になってしまっている原因を取り除くと共に、食事から効果的に摂取することが大事です。鉄分には、動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品に含まれる非ヘム鉄があります。ヘム鉄の方が消化管から効率よく吸収されることが分かっています。ヘム鉄を豊富に含む赤身のお肉やレバー、赤身の魚などを意識して摂取しましょう。非ヘム鉄を含む豆類やほうれん草なども、身近で取り入れやすいです。上手く組み合わせるといいでしょう。また、ビタミンCを含む食品(例: オレンジやブロッコリー)と一緒に食べることで、鉄の吸収が促進されます。逆に、お茶やコーヒーなどに含まれるポリフェノールの一種であるタンニンは、鉄分の吸収を阻害するので、一緒に摂らないようにしましょう。鉄サプリメントの使用も選択肢として考えられますが、過剰摂取には注意が必要です。また、一部の医薬品には、鉄のサプリメントとの飲み合わせが良くない場合があります。お薬を服用している人は、サプリメント購入の際に薬剤師に相談してください。明日からでも取り入れやすい方法で、鉄分補給を始めてみましょう。
大学を個人や地域のヘルスケア拠点に
近年、健康のために大事なのは、個人の努力だけでなく、その個人が住む地域の豊かさや教育環境、福祉や医療のインフラなど、個人を取り巻く環境であることが知られています。そのため、多くの地方自治体では、行政や企業が一緒になって、健康な社会環境の整備に力を入れ、健康寿命の延伸をめざしています。
このことから、私たちは、「大学に通っていたら自然に健康になっていた」というような環境を作れないかと考え、ゼミ活動の一環として、“女性ヘルスケアカフェ”を始めました。ここは、女性自身がライフプランを考える上で大切な健康知識を気軽に学べる場であり、健康について考える場になってほしいと考えています。
例えば、女性ヘルスケアカフェでは、今回のテーマである鉄分不足の注意喚起のため、過多月経が及ぼす心身への影響や対処法に関するミニ講義や、ヘモグロビン値の無料測定会を実施しています。また、月経用品を展示しながら、普段の使用方法や使用量から過多月経かどうかの相談を受けるなどもしています。さらに、研究面では、ゼミ学生と一緒に、「貧血予防・改善を目的とした情報提供の有用性」をテーマに調査を進めており、正しい知識を持つことがどのような行動変化に結びつくのかについて調べています。 今後も研究と実践を通じて、鉄分不足の課題解決に向けた取り組みを続け、一人でも多くの人が健やかに過ごせる社会の実現をめざしていきます。
参考文献
- Haemoglobin concentrations for the diagnosis of anaemia and assessment of severity
- 平成 21年国民健康・栄養調査報告
- 女性医学ガイドブック-思春期・性成熟期編(一般社団法人日本女性医学学会)
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