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日本の安全をどう守る? フランス外交から考えるこれからの安全保障
2026年2月28日、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃によって、中東で戦争が勃発し、4月にイランは、多くの石油タンカーが通航するホルムズ海峡を封鎖しました。中東は日本から地理的に遠いとはいえ、日本が輸入する原油の90%以上が中東産で、その多くがホルムズ海峡を通ります。海峡が止まれば、ガソリン代も電気代も上がります。安全保障は、防衛費や自衛隊だけの問題ではなく、暮らしそのものに影響を及ぼします。
また、「台湾統一」をめざす中国の動きも懸念されています。2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)がアメリカ議会上院公聴会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と発言し、大きな注目を集めました。
では、日本は、この不安定で予測不能な世界でどう身を守ればよいのでしょうか。ヒントを探すためにヨーロッパで最も「自立」にこだわる国、フランスの外交を見てみましょう。

外交資源を「持つ国」と「持たざる国」
最初に断っておくと、フランスに倣えばよいという話ではありません。日本とフランスでは、歴史的、地理的背景も異なり、外交において持っているカードは違います。
フランスには核兵器があります。290~300発と推計されています。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、拒否権を持っています。しかも欧州連合(EU)という、加盟国27カ国(2026年9月現在)の仲間・同志国とグループを形成し、それを主導しています。困ったときは、EUや国連を通して主張を行い、制裁や規制で相手に圧力をかけたりできます。
フランス外交には「戦略的自律」(Strategic Autonomy)という考え方が根付いています。フランスはアメリカという強大な同盟国を持ち、NATO(北大西洋条約機構)の主要メンバーでありながらも、「アメリカの言いなりにはならない」という姿勢を徹底しています。
それに対して日本は、非核三原則を掲げ、安全保障の柱はもっぱら日米同盟であり、「核の傘」を含むアメリカの抑止力に依存しています。アジアにはEUのような、多国間の強固な政治・経済統合を行う組織はなく、近隣諸国との関係は歴史的・感情的に複雑な問題を完全に解決しているとはいえません。中国、ロシア、北朝鮮は核を保有しています。日本がフランスのように振る舞えるわけではありません。
フランス外交から学ぶ3つの視点
それでも、参考になる点が三つあります。
一、同盟国であっても言うべきことを直言すること。 フランスのマクロン大統領は、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃について、国際法の枠外にあると明言しました。一方で、アメリカと決裂することはなく、米仏首脳は会談を重ねています。「賛成できない」と「仲間をやめる」は別物であり、同盟国が間違った道を進んでいるならば、それに対して異論を唱えるべきだ、というのがフランスの立場です。フランスは対立国とも独自の対話パイプを維持しようとしています。大国間の緊張が高まっても、単なる「アメリカの追従者」に甘んじることなく、自国が仲介役や独自のプレーヤーとして活躍できる余地を意図的につくり出そうとしているのです。
日本は同盟への配慮から、遠慮しすぎる傾向があります。同盟が強固で相互信頼が厚ければ、耳の痛いことも伝えられるはずですし、その方が大国の言動に賛同しない諸国から敬意をも得られることが期待できます。
二、「有志の輪」(多国間ネットワーク)をつくる力です。 フランスはイギリスと組み、2026年4月、イラン情勢が緊迫化する中、ホルムズ海峡の安全確保に向けた多国間の枠組みを呼びかけました。パリで開催された会合には、51カ国が集まりました。ひとつの大国に頼らず、志を同じくする国を束ねて動くやり方です。日本はエネルギーをホルムズ海峡に大きく頼る当事者であり、この輪の中で役割を果たす資格も動機もあります。実際、日仏間では4月の首脳会談で、海峡の航行の自由と安全の重要性を確認しています。
三、「法の支配」を外交の看板にすることです。 アメリカが2018年9月、国際刑事裁判所(ICC)批判を行うと、フランス外務省はすぐさま抗議しました。さらにICC判事らに制裁を科す大統領令にトランプ大統領が署名をすると、ルドリアン外相は「多国間主義と司法の独立への重大な攻撃である」として激しく非難し、制裁の即時撤回を求めました。2025年8月以降はフランス人のニコラ・ギュー判事が制裁の対象になり、フランス政府は「フランスの国家主権に対する重大な侵害」と非難すると同時にEUの枠組みを通じた対抗措置、アメリカの域外に適用される制裁からヨーロッパの個人や企業を守るための「ブロッキング規則」(Blocking Statute)を使うことまで模索しました。マクロン大統領はトランプ大統領に対して直接書簡を送付し、ギュー判事(および同様にアメリカから制裁を受けていたティエリー・ブルトン元欧州委員)に対するアメリカへの入国禁止や金融アクセス遮断などの措置を「不当」であると指摘し、制裁の解除と決定の見直しを直接要求しました。
この点は日本にとって他人事ではありません。現在ICCの所長は日本人の赤根智子氏で、2026年8月、所長を制裁の対象に含めると報じられました。日本はICCへの最大級の資金拠出国のひとつでもあります。法・ルールを守る側に立つことは、力の弱い国が自国を守る、一番確かな方法です。

理想と現実の間でバランスを図る外交
もちろん、フランスの外交も完全に戦略的自律を確保しているわけではありません。例えば、ICCを守ると言いながら、ICCが逮捕状を出したイスラエルのネタニヤフ首相が搭乗した航空機のフランス領空の通過を認めました。アメリカやイスラエルとの関係を考えれば、理想と現実の間で揺れるのは、どの国も同じです。フランスの外交は、模範というより「使い分けの見本」と言うのが正確でしょう。
また、ルールを一方的に押し付けられる側に回るのではなく、自ら多国間のルールづくりに参加し、時にはEUという神輿に乗って自国の影響力を何倍にも見せる。同盟関係を維持しつつも、自国の選択肢を狭めないこのバランス感覚こそが、フランス外交の伝統的な強みと言えます。
日本がめざすべき外交のあり方
フランス外交をそのまま丸写しすることは不可能です。しかし、「選択肢を一つに絞らず、多国間のネットワークを駆使して外交的自立性を高める」というフランスのマインドセットは、大いに参考になります。
事実、現在の日本外交はその方向にシフトしつつあります。日米同盟を最大の基軸としつつも、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)というビジョンを掲げ、オーストラリアやインド、さらにはヨーロッパ諸国との連携を急速に深めています。
特に日本にとって、長年にわたり経済的・文化的な信頼関係を築いてきたASEAN(東南アジア諸国連合)の存在は重要です。ASEANは、フランスにとってのEUのように日本が主導できる組織ではありませんが、ともに多国間協調を牽引する極めて重要なパートナーになりえます。米中の大国間競争の最前線にある東南アジアの国々もまた、特定の超大国に飲み込まれることを望んでいません。2025年11月以降に冷え込んだ日中関係の改善に努めるとともに、東南アジア諸国や民主主義諸国との重層的なネットワークを築いていくこと。そうすることで、日本は米中対立の狭間にあって東南アジアとの架け橋としての役割を果たし、各国が二者択一を迫られる状況を和らげることができます。それは地域の安定と日本自身の安全保障を支える鍵となります。

日本の安全を支える「外交力」
日本の安全を守るための最大の武器は、最新鋭の防衛装備品だけではありません。それは、いかに多くの国と結びつき、「日本が平和で安定していることが、自国にとっても欠かせない利益になる」と考える仲間を世界中に増やすかという外交力です。フランスのように、時には大国の間を取り持ち、多国間の枠組みを通じて国際ルールの形成に深く関与する。そうした「したたかで、しなやかな外交」こそが、これからの日本を囲む見えない防壁となっていくはずです。
※2026年10月5日脱稿。脱稿時点のフランス・マクロン政権は、戦後ドゴール大統領が礎を築いた上述の伝統的な外交路線を継承しています。しかし、2027年に予定される大統領選挙では、極右の大統領が誕生する可能性があります。そうなればフランス外交は大きく変わるかもしれません。
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