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「統計的に有意」で終わってはいけない ー会計学研究が社会に届けたいものー

2026/08/06

私たちは、仕事でも日常生活でも、「勘や経験だけではなく、エビデンス(証拠)に基づいて判断すること」がますます求められる時代に生きています。こうした時代に沿うかのように、最近では「データサイエンス」という言葉を耳にする機会も少なくありません。企業ではビッグデータを活用することが当たり前になり、大学でもデータ分析を学ぶ機会が増えています。本学にもDWCLA-ADaというデータサイエンス・AI教育プログラムがあります。

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実証研究はデータサイエンス以前から続いてきた

「データを集めて分析し、そこから客観的な知見を導き出す」というアプローチ自体は決して新しいものではありません。私が専門とする会計学でも、数十年前から企業の財務データや開示情報などを分析し、企業行動の特徴やその背景にある要因を明らかにするために実証研究が広く行われています。
この流れを大きく方向づけたのが、Ross L. WattsとJerold L. Zimmermanが1970年代後半に提唱したPositive Accounting Theory(実証会計理論)という考え方です。それまで主流だった「会計はどうあるべきか」を論じる研究に対し、「企業はなぜそのような会計行動をとるのか」をデータに基づいて説明しようとしたことが、現在の実証会計研究の発展につながりました。

「統計的に有意」で終わってはいけない

実証研究では、仮説をデータに基づいて統計的に検証します。仮説検証にあたっては、着目している要因が結果に影響を及ぼすかどうか、すなわち効果があるかどうかを解明したいということが普通です。そして、検証の結果得られたエビデンスとして、効果が「統計的に有意」に認められたという表現がしばしば使われますが、これは統計的にみて偶然のばらつきだけでは説明しにくい効果があることを意味します。
しかし、効果が統計的に有意に認められることと、その効果が十分に大きいことは別です。例えば、ある要因によって開示の適時性が統計的に有意に改善されたとしても、その改善の程度が極めてわずかであれば、開示実務上ほとんど意味がないかもしれません。
そのため、心理学や疫学などでは、「効果の有無」だけではなく、「効果の大きさ」に目を向けることの重要性が古くから指摘されてきました。Cohenのdに代表される効果量(effect size)は、効果の大きさを評価するために開発された指標です。私たち研究者が目指すべきなのは、p値による統計的有意性ではなく、有用な効果があるというエビデンスなのです。
もっとも、効果の大きさを示すだけでは、「開示実務の観点からみて意味があるほどに有用な効果なのか」を判断することは容易ではありません。実証研究の蓄積から有用な効果があると判断できるようなベンチマーク(基準)を経験的に設定することが期待されています。

「効果がある」だけでは社会は動かない

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さらに重要なのは、有用な効果があると確認されたとしても、それだけでは企業の情報開示をめぐる実務上の意思決定を支援することにはあまり役立たないということです。例えば、企業がある要因を備えることに、平均的にみれば、開示の適時性を改善する上で有用な効果があるとします。しかし、この要因を備えたとしても、すべての企業で必ず効果が現れるわけではありません。現実には、効果が現れる企業もあれば、効果が現れない企業もあります。すでに治療上有用な効果が平均的に認められている薬であっても、その薬がすべての患者に効くわけではないのと同じです。そうすると、開示実務においては、例えば、次のような疑問が生まれます。
「(結果的に)開示の適時性を1社改善するには、(平均的にみて)どのくらいの数の企業がこの要因を備えればよいのだろうか?」
学術研究としては有用な効果があるというエビデンスを提示すればそれで十分ですが、一歩進んで研究成果が社会において役立つには、それだけではまだ足りません。その効果を得るにはどうすればよいのかを具体的に示す「処方箋」が要るのです。しかも、この「処方箋」は、個々の状況に応じて修正ができ、かつ統計学や実証研究手法についての専門知識がない実務家にとって容易に理解可能なものでなければなりません。
私たち研究者には、実証研究で得られた知見を、実務家が現実の意思決定に取り入れやすい形で示す努力も求められています。

研究成果を社会へ届けるために

実証研究は、統計的有意性を提示するだけで終わってはいけません。社会が求めているのは、実証家がつい好みがちな「統計的に有意な効果があります」という結論だけではなく、「効果は十分に大きいのか」、そして「効果を得るにはどうすればよいのか」という、現実の意思決定に直結する知見です。
もちろん、現実の意思決定に役立つ知見をたったひとつの研究だけで提示することは、通常できません。しかし、研究成果を社会が求めている知見へと近づけようとする姿勢は、今後さらに重要となるでしょう。
研究成果がよりよい社会の実現につながる。その橋渡しを担うことも、研究者が果たすべき役割のひとつです。私たち研究者は、こうした未来を目指して、社会が求めている知見をわずかでも届けられるよう日々研究に取り組んでいます。
もし、このページをご覧くださった皆さんが、効果は「統計的に有意」であるという表現を目にしたときには、「効果の大きさは?」とか「効果を得るには?」など、ぜひもう一歩踏み込んで考えてみてください。

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