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「虫嫌い」の研究者が挑む「不快感」のサイエンス

2026/06/29

「見るのも触るのもイヤ!」「教科書の写真ですらゾッとする」 みなさんは、アリやイモムシ、ゴキブリといった「虫」に対して、そんな強烈な拒絶反応を抱いたことはありませんか?

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虫嫌いの研究者だから見えた新しい視点

実は、そう語る私自身も昔からかなりの虫嫌いです。 「アリの研究者です」と自己紹介すると、決まって「幼少期から虫好きな子だったんですね」と言われますが、昆虫どころか生き物全般が昔からとても苦手。大学のゼミ選びでも、「唯一、ギリギリ触れそうだったから」という消去法でアリの専門を選んだほどです(笑)。嫌々始めた採集を続けるうちに、アリの奥深さに魅了され、今や私のライフワークとなりましたが、本音を言えば今でも虫は苦手なままです。
でも、だからこそ気づいたのです。 「虫が好きな人」には見えにくく、「虫が嫌いな私」だからこそ見えてくる学問の新しい切り口があるのではないか、と。
私は今、アリの生態研究のかたわら、人間の誰もが抱く「虫の何が不快なのか」という謎を科学的に解明する研究に挑んでいます。一見ネガティブな「嫌い」という感情をイノベーションに変える、少し変わった、けれど社会に新たな可能性をもたらすサイエンスの世界をご紹介します。

教室の悲鳴が研究の出発点に

きっかけは、私が大学院で教育学の修士号取得を目指していた頃、学校現場で直面したリアルな問題でした。
小学校の理科には昆虫を学ぶ授業がありますが、教室では児童だけでなく、教えている先生からも「教科書の写真が気持ち悪くてページを開きたくない」という悲鳴が上がっていたのです。これは子どもたちの学びにおいて無視できない深刻な支障でした。
世の中には「虫が気持ち悪い」という声があふれています。しかし不思議なことに、これまでの学問の世界において、「どんな形やどんな動きに対して、人間は不快感を抱くのか」という心理的・視覚的なトリガーにまで深く踏み込んだ研究は存在していませんでした。
「それなら、虫嫌いの私がその正体を解き明かしたい!」 そう一念発起したことが、この研究の始まりです。

「虫」と知らせず不快感を測る実験

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人間の「嫌い」を客観的にデータ化するため、私はユニークな実験手法を取り入れました。被験者に「これは虫の画像です」と見せた瞬間に先入観による拒絶が生まれてしまうため、あえて虫だとは一言も明かさずに、昆虫の特徴をベースにした様々な「3D模型」を作ったのです。
まずは、純粋に「形」そのものの特徴だけを見て、それが「快」か「不快」かを直感的に判断してもらうアンケート分析を行いました。 「このトゲトゲしたフォルムや、異常に節の多いシルエットは不快度が跳ね上がる」 「この滑らかな曲線であれば、虫特有の形であっても人間は嫌悪感を抱きにくい」 こうしたデータを地道に積み重ねることで、人間が本能的に拒絶するビジュアルの境界線を少しずつ特定してきました。
さらに現在は、形にとどまらず、あの独特な「動き(不規則な揺れや、カサカサ・モゾモゾとした特有の移動スピード)」という動的な要素も実験に加えています。形と動きがどう掛け合わさったときに人間の嫌悪感がピークに達するのか、その精緻なメカニズムを日々掘り下げています。

嫌いを科学すれば、「心地よさ」をデザインできる

この研究の成果は、単に「虫嫌いの謎が解けた」という自己満足では終わりません。一般社会やビジネスの現場をドラスティックに変える、非常に幅広い可能性を秘めています。
原点である教育分野では、不快感をもたらす形や動きの要因を排除することで、子どもたちが苦手意識を持たずに理科の世界へ入っていけるような新しい教材や図表をデザインできます。「好き」を学びの入り口にすることができるのは、教育に携わる身として大きな喜びです。
さらに視点を広げれば、一般企業の商品開発や表現の未来にも直結します。 例えば、害虫駆除製品のパッケージやテレビCM。あまりにリアルな形や生々しい動きは消費者の購買意欲を削ぎますが、「不快感を与えないけれど、効果や対象が一目で伝わる表現」をデータに基づいて設計できます。あるいは逆に、ロボット工学やアミューズメント、インテリアデザインにおいて「人間が本能的に親しみとリラックスを感じる設計」を導き出すこともできるでしょう。 「不快の理由」を科学することは、裏を返せば、これからの社会に「心地よさ」や「安心」をデザインするための強力な武器になるのです。

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