大学の知と社会が交わり、
新たな気づきが生まれる場に。

「生きがい」や「やりがい」は他者とのコミュニケーションから見つかる

2026/02/27

みなさんは、普段、「生きがい」や「やりがい」を感じることはありますか? これらは人生を豊かにしてくれるものです。しかし忙しさに追われるうちに、自分が何のためにそれをしているのか、その意味や目的を見失ってしまうこともあるのではないでしょうか。そんなときにこそ、一度立ちどまって自らを客観的に見つめ直す時間が大切です。さらにそこに、“他者の目”を取り入れることもポイントです。

10030-1.jpg

第一歩は自分の行いを他者と共有することから

「生きがい」や「やりがい」について考えるのは、何かうまくいかないことがあって、悩んでいるときが多いのではないかと思います。そんなときは、まず、自分が取り組んできたことを振り返ってみましょう。ただ頭の中で考えるだけではなく、何らかの形で外に出してみることが重要です。最も手軽な方法は言葉にすることです。これまでしてきたことを紙に書き出すなど、言葉で表現すると自分の行いがはっきり見えてきます。
このとき、もうひとつ必要なのが、自分だけではなく、他の人にも見てもらうこと。SNSで発信するのもいい方法です。客観的な視点から見ると、同じできごとでも捉え方が変わるものです。自分では失敗したと思っていても、他の人からはすごい挑戦だと評価されるようなこともあります。SNSに書き込んだなんでもないことに「いいね」がつくかもしれません。いろいろな人と分かち合えば、思いがけない気づきや発見が得られるはずです。

価値観の異なる人と触れ合うことで視野が広がる

では、どのような人と共有するのがよいのでしょう。仲の良い友達でもいいのですが、実は共有する相手が自分と同じような立場や価値観の人だと、見方もあまり変わらないため、効果は薄いものとなります。世代や国籍が違う人、普段あまり交流がない人と触れ合ってこそ新しい視点が見つかります。
私の研究室では、高齢者の生きがいづくりをテーマに実践的な活動を行っており、学生と高齢者が触れ合う機会が多いため、日常的にそうした場面を目にします。例えば、就職活動がうまくいかずに落ち込んでいた学生が、高齢者の「人生いろんなことがあるからね」という一言で、ふっと心が軽くなっていたことがあります。高齢者の言葉で、長い人生においては通過点に過ぎないのだと広い視野を持てたのでしょう。
このような場を日常的に持つのは難しいと感じるかもしれません。現に現代社会では家庭や地域で異なる立場の人と交流する機会は減っています。しかし、職場はどうでしょうか。職場にはさまざまな人がいます。世代はもちろん、部署が違えば視点も違ってきます。働いている方は、普段は接することがない人と積極的に交流してみることをおすすめします。

モノを介し、円滑なコミュニケーションを実現

「いきなり交流と言われても」と、困ってしまう人もいると思います。交流する際には、何かきっかけとなるモノを用意してみてください。自分と他者だけでコミュニケーションをとろうとすると、それぞれが何を話すか考えなくてはいけませんが、モノがあればモノに注意が向くので話しやすくなります。モノが両者の距離を適度に保ってくれるのです。
実際に、乾杯すると情報交換できるカップを使った実験を行ったことがあります。デジタル技術を活用したカップで、乾杯時に文字が表示される小さな画面がついているのですが、表示できるのは数文字程度、登録しておいた自分の呼び名だけです。名刺交換をしたあとに歓談タイムを設けて自由に乾杯してもらったところ、このカップがあると、ない場合に比べて、自分と立場(性別や年齢など)が異なる人との会話が増えるという結果になりました。モノは何でも構いませんが、少し変わったもの、目新しいところがあるものだとより会話が弾みます。

10030-2.jpg

心理学には同じ対象物に対しての関心を共有する「共同注意」という言葉があります。例を挙げると、乳幼児がおもちゃで楽しく遊んでいるときに、保護者が同じようにおもちゃに関心をもって楽しそうにすることが共同注意です。この行動によって、乳幼児は自分が興味をもったおもちゃは楽しいものなのだと理解して、感情やコミュニケーション能力が育まれていきます。
この共同注意は子どもの発達に限ったものではありません。私たち大人の社会でもモノを介することでコミュニケーションを活性化することができます。うまくいかないときに価値観の異なる人の意見が聞きたいと思っても、全く交流がない人にいきなり悩みを相談するのは難しいですよね。日頃からいろいろな人とコミュニケーションがとれていると、「あの人なら良い意見をくれるのではないか」と思い浮かぶようになり、深い話もできるようになります。

身近なところでもやりがいを感じる機会はある

そもそも「生きがい」や「やりがい」とは何でしょう。人生にとって大切なものについて尋ねると、健康やお金だという声を聞くことがありますが、年齢を重ねるごとに健康は衰え、お金は減っていきます。健康やお金は、あくまで「やりたいことをする」ためのもの。「生きがい」や「やりがい」とは、自分がやりたいと思えることに向き合い、そこに意味や喜びを見いだせることだと私は思います。
そう考えてみると、意外と身近なことでもやりがいは感じられるものです。例えば、他部署の人に声をかけてお店を探してランチを設定し、おいしい料理を食べながら楽しく過ごすことができたとします。「誘ってくれてありがとう」「良いお店を見つけてくれてありがとう」と感謝の言葉をかけてもらえれば、やって良かったと感じることができるでしょう。
春は出会いの季節であり、自分とは異なる立場の人と交流するきっかけを得るのに絶好の時期です。組織全体のコミュニケーションを活性化しようとみんなが集まれる場を意図的に設けている企業もありますし、地域のイベントや行事などが開催されることもあるでしょう。身の回りにそうした機会があれば、ぜひ飛び込んでみてください。

Profile

取材に関するお問い合わせ

取材にあたりましては、事前に申請・承認が必要となります。
取材のお申込みをいただく際には、以下の注意事項をご確認いただき、「取材申込書」をご提出ください。