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農業の持続可能性を支えるカギは 一人ひとりの“推し活”かも!
“令和の米騒動”は収まる気配がありません。米の需給ギャップの要因は悪天候や長く続いた減反政策などさまざまで、消費者の中には「実際、農家さんはどんな影響を受けているのだろう」とか「日本の農業はどうなっていくの?」と考える人も多いでしょう。日本の農業の持続可能性をどうやって担保していくかを考えるタイミングかもしれません。その第一歩は、消費者一人ひとりが農業に関心を持つことです。そこで農業を楽しみながら知ることのできる方法をいくつかご紹介します。きっと新しい発見や出会いがあるはずです。
楽しみながら“推し農家“を見つける
農業を知るファーストステップは、やはり検索です。検索エンジンの活用以外に、SNS検索もお勧めです。若い農家さんはSNSで発信する人が多い一方で、私の地元・青森でも、アラフォー世代の農家さんが動画配信を始めて人気を集めています。リアルタイムで視聴者と交流しながらライブ配信をするライバーを通じて、農家さんを知る手もあります。どんな人がどんな風に、どういった思いで仕事をしているのか。人を通して農業を知ると、“推し農家さん”の発見につながるかもしれません。

「食べて」農業を知るのはやはり王道です。ドライブ好きなら、道の駅など産直に足を伸ばして、買い物の場として農村を訪ねてみる。産直では野菜や果物に生産者の名前シールが貼られていることが多く、定期的に買い物に行っていると、「あれ、同じ農家さんの野菜ばかり買っている!」と気づくことも。野菜の種類や並べ方など、無意識のうちに“特定の農家さんを推している”ことがあります。また、道の駅に通っていると、地域のイベントに出くわしたり、お祭りや音楽イベントの告知チラシを目にする機会があります。こうしたイベントを通して、農村を知ることもできます。
“推し地域”を見つけるのも、ひとつの手。全国さまざまな地域の野菜や果物を購入して、好きな産地を見つける。例えば、ふるさと納税を利用すれば、その地域の野菜定期便を気軽に利用できるので、自分の好みに合う産地を見つけやすいです。
定住や交流ではなくても、地域に継続的にさまざまな形で関わる人たちのことを「関係人口」と呼び、国は地方創生のため「関係人口」拡大を目指しています。
産直に通ったり、ふるさと納税をしたり、農家さんのファンになる、といった行動は、すべて関係人口であり、それが地方創生の道につながります。
ファンの醍醐味、健康食×映えスポット
ファンになると、推しに会いたくなるのが人情。選択肢のひとつに「農家レストラン」があります。農家の皆さんが厨房やホールで活躍している飲食店で、発酵食品をはじめ、地域の知恵が詰まった身体にいいメニューもあります。健康志向の人にとっても満足度が高いのではないでしょうか。
「農家カフェ」や「農村レストラン」など多様な呼称がありますが、私の研究対象でもある「農家レストラン」は、農家が生産から加工までを手掛け、農家が経済的にも安定するような取り組みを指します。個人で活動する人もいれば、農村の婦人部を中心にグループで活動している人もいます。部外者による運営ではなく、経営も働く人も地域の農家さんで、提供される食材も自分の畑で生産されたものや地域産が中心です。地産地消レストランの一つにも捉えられ、食材の輸送コストを抑えられるため地球環境保護にも貢献します。
“推し地域”に入り込みたい、と思えば農家民宿で数日を過ごすのはどうでしょう。欧米では長期休暇をゆっくりと農村で過ごすといったスタイルが一般的ですが、日本でもそんなスタイルを楽しんでみるのもいいと思います。農家民宿に泊まって地域に入り込んでみると、思わぬ“映えスポット”にも遭遇できるでしょう。
「突然、推しに会いに行くと、びっくりされないか?」。最初は驚かれるかもしれませんが、理由を話すときっと喜んでもらえるはずです。私は研究を通して知り合ったレストランや民宿を経営する農家さんの話を聞く機会があります。多くの人が「地域の良さを伝えたい」、「自分たちの技術・リソースを使いたい」と考えているので、「ファンがいてくれる、来てくれる」ことは大きな励みになると思います。
推し農家さんに、野菜や果物を作り続けてもらうためには、やはり消費者が推し続けることです。推す楽しみを見つけて、それぞれの方法・力加減で長く応援する。消費者一人ひとりの行動が、日本の農業の持続可能性を支える確かな力になるはずです。
街を出よう、農村で遊ぼう
「農家さんが農業を継続していくためにはどうすればよいか」を研究の中心としている私は、「農村で遊んでほしい」と常々考えています。
農村は「生産の場」だと思われがちですが、気楽に「遊びの場」として見てください。農村は、わざわざ行く場所、遠出する先ではなく、案外近くにあります。本学のある京都市内からでも、少し足を伸ばせば郊外に農村があります。
ちょっとした遊具を備えた自然公園があって、そこで遊んだり、都心ではヘッドホンでしか音楽を聴けなくても、田舎なら大音量で聴いても、そう文句は言われません。(ただし、場所は選んでくださいね。)
日常の延長として、普段やっている好きなことを楽しむ場として農村をとらえてください。
農業の未来は、どうなっていく?

農業をめぐる状況は、最近大きく変化をしています。例えば、後継者不足は多くの農村が長年かかえている課題ですが、それをスマート農業で解決する取り組みが米作りを中心に進んでいます。国の主導で、各企業も技術開発に注力しています。GPSを活用して遠隔操作でトラクターを走らせるといった実験も始まっており、将来的にはリモートで稲作ができるかもしれません。とりわけ米は地域や時期により作業は異なるものの、同じ作り方をするため、技術やシステムの汎用性が高く、普及しやすいと考えられます。遠くない未来に、一人の若者が画面越しに、たくさんの田んぼで米作りする日が来るかもしれません。また、稲作で事例が蓄積され、畑作にも新技術が実装されれば、スマート農業がさらに進む可能性があります。こうした変化にも、消費者が関心を持つことが大切だと思います。
日々の食を支えてくれている農業。興味や関心を持つ前に、当然あるものとして捉えている人が多いのではないでしょうか。けれども、どんな人が、どんな風に作っているのか、農業や農村に思いを巡らせてください。私たちの食を守り続けるために。
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