大学の知と社会が交わり、
新たな気づきが生まれる場に。

118年ぶりに誕生した「拘禁刑」のこと、知っていますか?

2025/06/09

2025年6月1日、拘禁刑(こうきんけい)という、わが国では実に118年ぶりに新しい刑罰が誕生しました。日本の刑法典が作られたのは、明治40年、1907年ですので、今から120年ほど前になります。この間、社会の姿や犯罪情勢は大きく変化しているのですが、犯罪と刑罰について定めている刑法典は、ほぼ、作られたときのままの形を残して現在に至っています。

10019-1.jpeg

刑務所に入る人は7%以下。日本の刑罰と裁判の実態

日本の刑罰は、生命を奪う生命刑である死刑、自由を奪う懲役刑や禁固刑、財産を奪う罰金刑など、7種類が規定されていました。しかし、実際に裁判で死刑を宣告されるのはごくわずかで、死刑が執行される数も、年間数件程度にすぎません。一方、財産刑である罰金刑については、殺人罪や強盗罪などの凶悪犯罪や重要犯罪には適用されないため、刑罰というと、刑務所に収監する自由刑を念頭に置く人が多くいらっしゃると思います。もっとも、『令和6年版犯罪白書』によると、犯罪者のうち、起訴されるのは3割に過ぎず、また起訴されて刑事裁判を受けても、実際に刑務所に送られるのはその7%に過ぎません。つまり、犯罪者のごくごく一部しか刑務所には入らないのです。

懲役刑と禁固刑の意義と拘禁刑導入の理由

日本の自由刑には、刑務所に収監して刑罰の一環として作業を義務付ける懲役刑と、作業は義務ではない禁固刑とに分かれます(このほか、1カ月に満たない短期の自由刑としての拘留刑があります)が、私たちが刑罰と言うとき、頭に思い浮かべているのは、やはり懲役刑。その懲役刑が、拘禁刑の創設にともなって無くなったことをご存じでしょうか。
『令和6年版犯罪白書』によると、裁判所で言い渡された自由刑のうち、懲役刑が約94%と、自由刑のほとんどが懲役刑で占められています。また禁固刑で収監された受刑者も、作業が義務ではないにもかかわらず自ら申し出て作業に従事している者(請願作業)が約82%となっていて、これらを合わせると、刑務所に収監されている受刑者の約99%が作業を行っており、懲役刑と禁固刑を分ける意義がほとんど見いだせないというのが改正の背景にあるようです。

10019-2.jpg

刑罰の本質とは?

刑罰の本質については、罪に応じた報い、すなわち罪に対する罰と考える「応報刑」の立場と、将来の犯罪を予防するものと考える「目的刑」「予防刑」の立場とが対立しています。国民のほとんどが、応報刑、すなわち、悪いことをした者は刑務所の中で苦痛を感じる生活を送るべきだと思っているのではないでしょうか?確かに、刑務所に収監され、好きなときに好きなことができるという自由が剥奪されることで苦痛が与えられます。しかし、受刑者の多くが、そういった環境や生活に慣れてしまって、日々、それほど苦痛を感じているわけではないようです。

受刑者のホワイトな職場環境が再犯を生む?

刑罰の一環としての作業についても、大昔のような危険な重労働が強いられるわけではなく、基本的に、安全な作業が1日8時間、週40時間、残業ナシ、土日祝日は休み、加えて、受刑者どうしの「職場トラブル」(作業中の私語は厳禁)や最近問題となっている客からのハラスメントも全く無い、さすが法務省の管轄と言うべきか、非常にホワイトな職場環境での作業となります。そのため、刑務所を出て就職しても仕事が続かないケースも多く、刑務所に戻りたくて罪を犯す…といった者まで出てきています。

拘禁刑でめざす「再犯防止」と「個別最適な更生支援」

法務省によると、懲役刑では作業が義務となっているため、改善更生や社会復帰のために必要な指導等を行う時間の確保が困難であり、一方の禁固刑では改善更生や円滑な社会復帰に有用な作業であっても本人が希望しない限り行わせることができないといった問題があるため、拘禁刑に一本化して、個々の受刑者の特性に応じたきめ細かな処遇を実現し、効果的な改善更生と円滑な社会復帰を図ることが可能になるとしています。つまり拘禁刑への一本化は、刑罰の重点が応報から(再犯の)予防に移ることを意味しているように思われます。

再犯防止の現実と、国民が抱く“納得感”とのズレ

現在、刑法犯の認知件数は下がり続けている(もっとも、ここ2年ほど上昇傾向が見られますが…)一方で、検挙された者のほぼ半数が再犯者によって占められているなど、確かに、再犯防止が重要課題となっています。また、実際には、拘禁刑で収監された受刑者が刑務作業を免除されるということはほとんど無いと思われます。それでも、制度上、凶悪な犯罪を犯したにもかかわらず、刑務所の中で作業=仕事をすることなく、私たちの税金によって、三食と最低限の衣食住(場合によっては介護)が保障された生活を送る受刑者が出てくる可能性がある、ということについて、はたして国民の理解は得られているのでしょうか?

Profile

取材に関するお問い合わせ

取材にあたりましては、事前に申請・承認が必要となります。
取材のお申込みをいただく際には、以下の注意事項をご確認いただき、「取材申込書」をご提出ください。