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ビタミンDの驚くべき健康効果と未来の認知症予防アプローチ

2025/02/07

ビタミンDは、私たちの健康に欠かせないビタミンのうちの1つで、水に溶けにくいビタミンです。その働きについてよく知られていることは、血液中のカルシウムを増やし、骨を強くし骨折のリスクを減らすことから骨の健康維持に重要な働きを持つことかと思います。 最近では、免疫力についての知見で、血液中のビタミンD濃度が低い人ほど、COVID-19に感染しやすく、重症化しやすいことが報告され, 世界中で健康への関心が高まっている中で、ビタミンDが注目を集めるようになりました。 それ以外に、筋疲労、骨粗鬆症、感染、悪性腫瘍、心疾患、糖尿病、脂肪肝、高血圧、腎疾患など多くの症例との関係が報告されています。私たちも、高齢者の認知機能・身体機能、ASD児※の症状緩和効果、妊娠中の母体のビタミンD濃度と出生児の頭囲との関係について明らかにしてきました。このように、ビタミンDには多様な作用があります。
※ ASD児:ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係やコミュニケーションがうまくいかず、特定のことに強い興味や関心 を持ったり、こだわり行動 をしたりすることが特徴の発達障害のことです。

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ビタミンDの働きと不足への対応策

食物中に含まれるビタミンDは、吸収後体中のほとんど全ての細胞内に入り込み、核内のビタミンD受容体に結合して生理作用を発現します。つまり、脳や筋肉など、体中全ての臓器を作っている細胞の中まで入り込んで、臓器の機能を調節しているということになります。したがって、多様な働きをもつビタミンDはビタミンの一種というよりも、ホルモンの一つだと考えられています。
ビタミンDは、90%の日本人で不足していることが知られていますので、自分のビタミンD値を知り、不足の場合は積極的にビタミンDを増やすような対策が必要です。
ビタミンDを多く含む食品として、魚類やきのこ類、卵などが推奨されています。サンマ1尾で約2日分、干しいたけ14個、卵2個半で1日分のビタミンDの摂取の目安量を満たすことができます。ビタミンDは、熱にも強く、調理過程で加熱しても失われず、油との相性も良いことから、幅広い調理方法が可能であることが知られています。一方、ビタミンDは口から摂取するだけでなく、皮膚で紫外線により合成されますので、日光浴が推奨されています。紫外線は季節と緯度によって強度が異なりますので、晴天の日に両手と顔を日光に露出した場合、1日に必要量のビタミンDを合成するためには、那覇で8分、つくばでは22分、緯度の高い札幌では76分の日光浴が必要とされています(冬の12月の正午の場合、国立環境研究所)。

認知症発症とビタミンDの因果関係

日本は高齢化が進んでおり、2030年には約700万人にまで認知症の人の数が増えると推定されています。認知症の根本治療はないため、予防策を取るために、認知機能低下を早く知り、脳の健康を維持することが大切です。
これを踏まえて臨床試験を進めた結果、ビタミンDの摂取が認知機能の低下を緩やかにすることが示唆され、認知症発症とビタミンDの摂取に因果関係があることが明らかになりました。

ビタミンD値を推測するアルゴリズムとアプリ開発

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そこで、我々は、食事や生活習慣からビタミンD値を推測する質問を考案し、採血なしで自身のビタミンD値を知ることができるアルゴリズムを開発しました。さらに、これまでの知見から、認知度は、ビタミンDだけでなく、体脂肪やBMIなどとも関連していますので、推定したビタミンD値を含む関連項目のデータからAIを用いた機械学習を行い、認知度を推定できるスマホアプリを開発し、特許出願しています。現在、キリン堂薬局様と連携し、実際の店舗環境や、京田辺市役所健康福祉部主催の「アイトレ教室」の中での運用試験を進めているところです。
このアプリを利用することにより、日常生活には支障がないが、認知度の低下が認められる、軽度認知障害(MCI)の判定を得ることができ、認知症への移行を予防することが可能となります。完成後は、スマホを用いてご自身の認知度を手軽に知ることができるだけでなく、自治体の健康福祉・長寿介護関連の担当課、健康福祉関連企業の方にもご利用いただければと考えています。

ビタミンDが拓く未来の治療の可能性

活性化ビタミンD製剤が骨粗鬆症の治療薬として処方されているように、将来的には、ビタミンDが認知症の進行を抑える薬として処方され、治療に貢献することが期待されます。

ひとつぶラジオ

同志社女子大学の教員を迎えて、日々を豊かにするヒントをお届けする「ひとつぶラジオ」。
こちらでは、長谷川特任教授による「ビタミンDが変える明日の健康」を公開中です。
ぜひ、合わせてご覧ください。

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