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共生社会の実現を目指したユニバーサルデザイン ー視覚障がい者と晴眼者が共用できる製品とサービスー
ユニバーサルデザインとは、特別な改良、特殊な設計をしなくても、年齢の高低、障がいの有無に関わらず、より多くの人々が可能な限り最大限まで利用できるように配慮された製品、環境のデザインのことです。多様な人々の利用を想定したものづくりやサービスの普及をめざした理念の一つが、ユニバーサルデザインです。
(卒業研究で学⽣が作製した本学今出川キャンパスの触知案内図の写真)
ユニバーサルデザインの研究と産官学連携による実用化研究
私は、ユニバーサルデザインに関連する研究に取り組んでおり、これには利用者や支援者とのコラボレーションが不可欠です。基礎研究の段階から、産官学連携による実用化研究まで、段階的に取り組んでいます。年齢や障がいの有無に関わらず誰もが使いやすい共用品、または福祉用具や支援機器の開発・評価に関する研究にも取り組んでいます。ここでは、当該領域の研究に関心をもっていただければと考え、共生社会の実現を目指したユニバーサルデザインの理念に基づく利用者・支援者と連携した視覚障がい支援に関する実践的研究の事例を簡潔に紹介したいと思います。
晴眼者と視覚障がい者が共有できる点字・触知図
一般的に知られている点字印刷物は、白い上質紙に点字プリンタで凸状の点を形成するエンボス印刷が主流です。しかし、印刷技術の進歩により、カラー印刷された普通文字やイラストの上に、点字や触知図を併記することが可能となりました。私は、無色透明な紫外線硬化性樹脂インクを使用し、視覚障がい者と晴眼者が同じ印刷物を共有できる印刷技術の普及に努めてきました。この印刷技術では、一般的なスクリーン印刷方式を採用しており、無色透明な紫外線硬化樹脂インクを使用することで、晴眼者の視認性を損なわずに、視覚障がい者が点字や触知図を触読できるという特徴があります。また、さまざまな素材への印刷が可能であり、印刷メーカーは既存の印刷装置を⽤いて対応できるため、博物館や美術館の案内図、地下鉄や市役所などの公共施設の点字サインや触知案内図の印刷にこの印刷技術が⽤いられています。
点字サインと触知案内図の普及と標準化への取り組み
これまで、無色透明な紫外線硬化性樹脂インクを使用した点字サインと触知案内図の普及に寄与するために、「印刷素材と点字の触読性の関係」などを明らかにする研究を、点字・触知案内図の利用者の協力を得て推進してきました。特に、表示方法が統一されていなかった公共施設等の触知案内図の表示方法に関する日本産業規格(JIS T0922)(高齢者・障害者配慮設計指針-触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法)の策定に注力し、現在ではこのJIS規格に基づいた触知案内図が作製されるようになりました。
点字・触知図印刷装置の開発と印刷品質向上の手法の提案
また、無色透明な紫外線硬化性樹脂インクを使用したディスペンサー方式による新たな点字・触知図の印刷装置を、民間企業と協力して開発し、無色透明な紫外線硬化性樹脂インク製の点字や触知図の印刷品質向上の手法を提案しました。この印刷法は、量産には不向きですが、従来のスクリーン印刷方式よりも短時間で、より触読性の高い点字や触知図の印刷が可能であるという特徴があります。今後も、点字・触知図の利用者と協力して、晴眼者と視覚障がい者が共用できる印刷物の普及に努めていきたいと考えています。
ボディソープ用触覚識別記号の考案
ある時、視覚障がい者団体から「シャンプーにはギザギザの触覚識別記号があるように、ボディソープ用の触覚識別記号を考案してほしい」との要望が寄せられました。この要望を受け、化粧品関連の工業会や視覚障がい者団体と連携し、ボディソープ用の触覚識別記号を検討しました。その際、ボディソープ用の触覚識別記号の試作に使用したのが、前述のディスペンサー方式の点字・触知図印刷装置でした。視覚障がい者団体と協力してこの装置を用いて短期間で複数の触覚識別記号を作製し、識別実験を行った結果、ボディソープのポンプ天⾯とボトル側⾯に凸状のラインを付けるという案が採用されました。この識別記号は、日本産業規格(JIS S0021-1)(包装−アクセシブルデザイン− 第1部:一般要求事項)に採用され、現在ではスーパーやドラッグストアなどで確認することができます。この記号は、視覚障がい者のみならず、誰にとっても役立つものです。
こうした利用者の要望に基づいて、利用者と関係者が協力することで、多くの人が利用できる製品やサービスの改善が世の中全体で進展しつつあります。今後も、利用者や関係者と連携しながら当該領域の研究を進めていきたいと考えています。
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