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もうひとつのオリンピック ーパラリンピックから学ぶ公平性ー
オリンピックイヤーであった2024年は、オリンピックに続き、パラリンピックがパリで開催されました。深夜の時間帯に放送されていることが多かったですが、ご覧になられましたでしょうか。私は車いすラグビーの日本とカナダの試合を見ました。想像以上に“ごっつい”音でぶつかりあっていて、迫力がすごかったです。ぜひ、現場で見てみたいものです。
私のゼミでも、パラリンピックの種目であるボッチャにチャレンジしてみました。非常にシンプルなルールなのですが、ボールをコントロールすることの難しさや、どのような戦略で勝負をしていくのかを考えることが多くあり、奥深い種目であることを改めて感じました。年齢や性別、障がいのあるなしを問わず、一緒に楽しめるスポーツや活動、遊びを通して、人と人とのつながりが生み出されていくのだと思います。
「パラリンピック」という名称の由来
ところで、みなさんはパラリンピックの「パラ」という名称の由来をご存じでしょうか。もともとは、下半身不随のParaplegiaと、オリンピックのOlympicsという言葉を組み合わせた造成語で、パラリンピック(Paralympics)が正式名称となったのは、1988年のソウル大会からです。ただ、出場者も車いす使用者から対象が広がったことに加えて、リハビリテーションとしてではなく、アスリートによる競技スポーツへと発展していったことから、現在はパラレル・オリンピックParallel Olympics、つまり、「もう一つのオリンピック」として認識されるようになりました。
パラリンピックにおける「公平性」の重視
パラリンピックの大きな特徴として、「公平性」が重視されていることがあります。障がいの種別だけでなく、その重さによって、陸上や競泳などでは競技のクラスが細分化されています。また、車いすラグビーでは選手によって持ち点が異なり、フィールドにいるメンバーの持ち点の合計に制限があります。こういった背景から、今回のパリの場合、オリンピックの32競技329種目の一方で、パラリンピックは22競技549種目あり、競技数と比較して種目数の大変多いことが分かります。
個々のニーズに応じた支援
では、なぜ「公平性」が重視されているのでしょうか。それを考えるヒントとして、ロバート・ウッド・ジョンソン財団が2022年に発表した、公平と平等との違いを視覚的に表している図をご覧ください。
図のように、平等に同じ自転車が与えられたとしても、その人のニーズや状態に合わないものであれば、前に進むことができません。すべての人が前に進むために、それぞれの人のニーズに応じた状態であることが公平といえます。そのためには、その人の抱える障壁や環境、状況を理解していくことが前提となることを示したのが右図になります。
パラリンピックにおいても、アスリートが競技に参加し、最善のパフォーマンスするための条件を整えるために、「公平性」が重視されているということができるでしょう。
公平性とダイバーシティの推進:すべての人が力を発揮できる社会へ
一人ひとりの持っている力の発揮される環境があれば、社会を前向きに変えていくことができる。この観点から、昨今、ダイバーシティとインクルージョン(Diversity & Inclusion)を進めていこうとする企業や大学が多くあります。これらに加えて、ここまで紹介してきた「公平性」(Equity,エクイティ)が重視されるようになってきました。3つの要素の頭文字をとってDEIともいわれています。
障がいのある従業員が働きやすいように職場の環境を整備したり、学校に生きづらさを感じている子どものための居場所を作ったりすることなど、一人ひとりに合った環境を整えることが重要です。そして、その前提となる公平な状態が整えられて、すべての人が力を発揮されていきます。もし、いま力を十分に発揮できていない人がいるならば、その障壁となる環境や状況を社会の側が理解して、調整を試みることが求められるでしょう。
「公平性」という条件が満たされることによって、「もうひとつのオリンピック」と同じく、その人の力が発揮され、自分らしく生きるという「私」の物語が萌芽し、展開されていくのだと思います。
引用資料
Joan Barlow (2022) We Used Your Insights to Update Our Graphic on Equity. (閲覧日:2024年8月26日)
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