東京ハイカラ文学散歩を実施

2025/12/09

日本語日本文学科では、近代文学を身体で読むことをテーマにした一泊二日のツアー「東京ハイカラ文学散歩」を実施しました。学生18名、教職員2名が参加しました。二日間とも小春日和の空で、東京へ向かう新幹線からは富士山の裾が美しい青に映えていました。

夏目漱石『三四郎』の主人公は、大学進学のために上京する汽車でミステリアスな男と出会います。「これから日本も発展するでしょう」と言う三四郎に、男はただ「滅びるね」と呟くだけです。東京に着いて離れ離れになった二人は後に奇妙な再会を果たすことになります。

最初のスポットである「東京駅舎」は、日本近代建築の父・辰野金吾によって設計されたものです。2012年に開業当時の姿に復元されました。東京駅から歩いて数分のところにあるのが、2009年に「三菱一号館美術館」として復元された三菱「第一号館」です。鹿鳴館の設計で知られるジョサイア・コンドルの手によるものです。美術館では、大正昭和初期のモダン・ガール(モガ)のファッションでもあったアール・デコやモードの展示を鑑賞しました。

参加者は事前に、戦前の東京を映像で学び、また東京を舞台にした小説を読んできました。そして、昔の映像・作品考察・文学マップを、SNS上の「東京ハイカラ文学散歩」専用チャットで共有してきました。すべての情報はここに集まっており、いつでも利用できるようになっています。3名1組の各グループは、訪れたハイカラスポットの写真やコメントをここに投稿することにしました。自分たちの文学散歩はもちろん、他のグループの写真やコメントがリアルタイムで届くのも楽しく、このような工夫で多面的な学びが実現できます。

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さて、二日間の自由行動で多くのグループが訪れたのが、浅草・上野・銀座です。

浅草は、かつての東京一の繁華街であり、その光と影は多くの文学者を刺激してきました。たとえば谷崎潤一郎『秘密』は、浅草の人目を遁れ、ある「秘密」にのめり込む男を描いた小説です。そして、日本初の公園である上野公園には博物館・美術館・レストラン(上野精養軒)がつくられました。この上野台地は下町の浅草とは異なった文化の薫りをまとっていたのです。貧しかった樋口一葉はこの場所にあった図書館に通って古今の文学作品を読んで吸収し、傑作を矢継ぎ早に発表する「奇跡の十四ヶ月」を迎えることになります。

また、明治時代に多くのカフェが開店した銀座は、大正12年の関東大震災以降、その復興と同時に流行の最先端を行くエリアになります。昭和に入ると「松坂屋」「三越」といったデパートで買い物を楽しむ若者(モボ・モガ)の姿も小説に登場しました。

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二日目の夕方、最後のスポットである「旧岩崎邸庭園」(三菱第3代社長・岩崎久彌の本邸)に再び全員が集まりました。

岩崎邸は品格をまとった西洋風木造建築で、これもコンドルによる設計です。この洋館は日本庭園を伴った書院づくりの和館とつながっており、広大な庭が両館を囲んでいます。建物にも庭にも和洋の要素が見られる、まさに日本近代を象徴する建築物です。この岩崎邸は、東大から不忍池へと下る無縁坂沿いに建っています。森鷗外『雁』の主人公の岡田は東大生で、無縁坂に住むお玉と密かに想い合っていました。ドイツに渡ることが決まった岡田は、この岩崎邸の隣でお玉と遭遇しますが、二人はそれ以上踏み込むことができず物語は終わります。実際に歩いてみると、登場人物の心理が坂の起伏に象徴化されていることがよくわかります。

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事前に文学作品を読むことで東京散歩がより楽しくなったようで、参加者はそれぞれに有意義な時間を過ごすことができました。